神話を髣髴とさせるような煌めきと芳醇な文章。
地の文をじっくりと味わいながら読みたい方、重厚な世界を旅したい方におすすめです。
読書中、まるで物語の舞台となる大樹サーディアナールの常緑の木々の葉に囲まれているような錯覚に陥ります。
文化の相違や価値観の相違を抱えながら、差別を超えようと葛藤する人物たち。
一体自分に何が出来るのかと問いながら愛しい者のために行動する姿に好感が持てます。
子守唄や伝説の意味が物語の終盤において種明かしされる時、読者もまた子守唄とタイトルのその意味を知ります。同時に目の前が突然切り開かれたような大きな世界を想像するのです。
古き殻を破り、新しき場所へ旅立つ者の、愛情と未来に満ちた物語です。
まず、はじめに。
この作品について、あまり、多くのことを語らぬようにします。
まだこの物語を知らぬ人に、多くのことを感じてほしいからです。
それではレビューにも何にもならぬと思いますので、勇気を出して、少しだけ。
世界が、ここにあります。
それは混沌でありながら整然と並べ立てられていて、濾過され尽くしていながらなお濁っている。
登場する人物を通じて描かれるそこには、精霊をはじめとする、我々が実際に眼にすることのないような存在もあります。
この作者様の他作と通じる世界であるわけですが、私はこの世界が大好きなのです。
よく、作家の腕が世界を創るなどと陳腐な文句を耳にしますが、その次元の話ではありません。
ここには、文化も言語も風習も存在し、火が、水が、光が、闇が、風があります。
そして、そこに生きる命も。それがもたらす、嘘や偽りや、真実すらも。
登場人物について誰がどうだとか、物語のストーリーがどうで、とか、そういったことを私が述べることこそ、陳腐。
是非、その眼で。
確かに存在するこの世界の中、彼らが何を見、何を感じ、何を追うのかを。
是非、その心で。
それが貴方に何を感じさせ、何を見せるのかを。
漠然とした内容になり、申し訳ありません。
私は、この素晴らしい世界を言葉にしてしまうことで、誰かの中で息吹くであろう芽の色を塗り潰してしまうことを恐れているのです。
どのような芽が貴方に息吹くのか、それは、貴方にしか分からぬことであると思うのです。
最後に、一言。
私にとっては、とても面白い、大好きなお話です。更新を心待ちにし、読みながら一喜一憂していました。そして、読み終えた今、暖かな心持ちで、我が家族を大切にしようなどと思っているわけです。
その事実を、ここに置いておきます。