とある王国が異世界転生者に潰されるまで

脳幹 まこと

被害者から見た異世界転生モノ


 王国兵士長・ウィラーは実力、持ち前の明るさ、責任感の強さにより、なるべくして兵士長になった男であった。妻と娘を養い、王国では上からも下からも慕われる理想的な人物で、努力と経験によって培われた信念は強かった。

 そんな彼の頭を悩ませているのは、異世界転生なる禁忌によって生まれた者達――転生者のことだった。悪性がある訳ではないが、凄まじい力を持って国じゅうを駆け回っていると報告を受けており、万が一、敵に回ったときのケースや、膨大な魔力ゆえに周囲の環境・生態系に悪影響を及ぼす可能性を考えると、王国の平穏を守る立場としては厄介な懸念材料になっていた。

 事前策として、国の方で交流を計ろうと目論んだが、転生者一同は「自由にさせてくれ」「規則に縛られるのは性に合わない」と全く聞き入れない。この状況に危うさを感じながらも、周りの人物と幸せな毎日を送っていた。


 しかし、王国とウィラー達の平和は、未知の力を持った(暴走のリスクがある)獣人を王国が発見、管理しようとしたことがきっかけで突然崩れた。獣人の捕獲の瞬間を見た転生者が、奪還を目的に過剰なまでの攻撃を王国に仕掛けたのだ。

 ウィラーは懸念が的中したこと、彼らの実力が想像を遥かに超えていたことに怖気づきながらも、それでも指示をし通した。しかし、転生者にはまるで通用しない。実力の差を見抜いていたので、穏和な対応(謝罪、示談など)を片っ端から試みたが駄目だった。彼らは獣人に手をつけた時点で、王国を許すつもりは一切なかったのだ。

 自分を慕う兵士達が無惨にもやられていく。友人からの連絡がぷつりと途絶える。理不尽に襲われる絶望の中、国王と日夜、対策を立て続ける。家族には気丈に振る舞うが、もはや精神は限界に近かった。

 王国は獣人を転生者達に引き渡す(というより奪われる)が、もはや手遅れであった。乱入に便乗した賊の暴走、スポークスマンの扇動が決定打となり、王国じゅうが大混乱となり、次々と反発が出始める。

 善政を敷いていたはずの王は、唯一の仲間と呼べるウィラーに身の丈を打ち明けた後、公開の場で王の座を辞することになる。転生者一同は責任を取らず、後継者もいない状態。王は隣国に助けを呼ぼうとしたが、国民に「売国奴」扱いされ、過激派の人間に殺されてしまう。

 地獄絵図と化した自国の中で、ウィラーは自分の終わりを悟る。家族に遺書同然の手紙を書き、すべての元凶である転生者一同と獣人に謝罪を要求しにいく。彼らに罪を認めさせることが、国の威信を取り戻すための唯一の方法だった。

 これは賭けであった。しかし、出会った瞬間に獣人が怯えていた(実際には王国は何もしていないに等しいが、獣人は人見知りだったのだ)ことで命運は決まった。「女の子を泣かせるやつは許さねぇ、王国の狂信者め」とまるで見当違いを言いながら、転生者の少年はウィラーを袈裟斬りにしたのだった。家族、仲間、王国……それらを夢想しながら、ウィラーの意識は消えた。遺体は仲間により処理され、塵すらも残らなかった。転生者一同は別の国へと赴いていった。


 転生者一同が抜け、王もいない今、扇動者が王同然となっていた。賊の勢いはとどまらず、ウィラーの両親は息子の数段は惨いやり口で殺される。素人達に力任せに暴力を振るわれ続け、老人二人が息絶えたのは三日めだったという。

 ちなみにウィラーの死は最期まで知らなかった。手紙は届かなかったのだ。


 首都近くにいたウィラーの妻は訃報を知り、深い悲しみに囚われる。自殺すら考えたが、残された家族のことを考えると、それも出来ないと一人で育てることを決意する。

 賊がはびこる中、娘を一人立ちさせるまで育てることに成功したが、その直後、転生者の一人の大魔法の巻き添えを喰らって考える間もなく家ごと消滅する。


 ウィラーの娘は母の教えもあり、別の国へ移動していた(許可されたのはウィラーの人望あってのこと)。母の死を知ったのもその頃。転生者に対する深い憎しみを抱きながら、馬車に揺られていると、転生者の魔力によって変質した生物(モンスター)に襲われてしまう。未知の存在に手も足も出ないでいると、どこからともなく人間達が現れて、それらを退治する。

 その佇まいから正体を察した娘は殺意を露にするが、少年が無意識に放ったチャームの魔法で瞬時に洗脳されてしまう。


 締めの台詞は「相も変わらず凄い力だ」と賛美する仲間に対する、少年の「俺、普通のはずなんだけど、またなんかやらかしちゃった?」である。

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