第48話 エピローグ

『きぼう』の白い花が風にたゆたい揺れている———。


如月の作った多彩なバラで溢れる中にそれはリボンのようにつた生の枝を延ばしていた。


「『きぼう』がとてもきれいですね、店長」


そう声をかけられ振り向くと、如月がつばひろの帽子をかぶり、パステルグリーンのエプロンをかけて立っていた。


「もうすぐ開園ですよ、店長さんがいないと始められませんから」


「ああ。如月もしばらく忙しいけど……」


「はい、頑張ります」


今年は百万本のバラの開花の期間だけ園を開放することにしたのだ。


「『きぼう』もこの陽当たりのいい広い場所にきてのびのび枝を延ばせて……嬉しそうだ……」


店長こそ嬉しそうだと隣りに寄り添う紫がクスッと笑う。


門外不出の『きぼう』を如月の土地に渡したのは、もちろん二人の因縁があったからだ。

それに、元々は如月の先祖が創出したバラなのだから、ここに帰ってきて当然だと思えた。

ただ如月とのそんな縁があった事はずっと話さないままにしている。

必要ない、そう思えた。


百万本のバラに囲まれて立つ待ち焦がれた人にようやく会えた如月には、もう少し後になってから驚ろかしてやるために取っておくつもりだ。


きっと『きぼう』が巡り合わせてくれた、そして、力をくれたのだと……。


「新田———」


如月がバラ園の中を駆けて行く先に新田裕介の姿があった。


あの日———


色とりどりのバラの壁を背に見覚えのある背中がゆっくり振り返った。


「約束通り受け取りに来たよ。僕への花束だからね。」


新田は手を伸ばして百万本のバラの花束を受けとめた。



———おわり———

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花束にかえて とし @toshokanzume

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