『キラメキ所以、トキメキ支援、切り捨て御免』の恋魔法でござる!
彼も彼らも私も僕も、皆うぉーりあで候
「
「フヒッ、サーセン」
恒例の如く、
だって式島さんてば、
「古泉先輩、助けてください!」
心の中でエロオヤジみたいに笑っていたら、店舗で商品チェックをしていた
「キショイがまたお客様と揉めてます! 死ねばいいのに死にません!」
「もー、またぁ?」
うんざりした声で答えた私とは裏腹に、式島さんはこの上なく楽しげな笑い声を零した。
「ほら、早く行ってあげなさい。『バイト』の教育は、あなたの役目でしょ? そろそろ時間だし、彼を連れて出発するで候」
式島さんのせいら口調は、こんなにもキュートだというのに。
「寄るな触るなくっつくなで候! 三次の薄汚いメス豚どもめが! 吾輩は
こいつときたら、接客業を何と心得ているのか。
まともに仕事もできないなら、伸びた鼻毛触手に囚われくすぐり倒され身悶える公開羞恥プレイでも披露しとけよ。その方が面白いし私も萌えるのに。
「嬉しい! アナカム様に罵られた!」
「素敵! もっと激しく罵ってください!」
「メス豚ってもう一回言ってくれませんか!? 録音して無限リピートで聞きたいので!」
それにしても、世の中には変なファンもいるもんなんだなぁ……。
店の制服を着た
「あっ、サク殿! ちょうど良いところに来たで候! こやつらを何とかしてくだされ!」
目敏く私を見付けた十哉が叫ぶ。
「きゃあ、アナザーアナザーせいら様の登場よ!」
「ああ、何と凛々しくて尊みに溢れておられるのかしら!」
「どうかツーショお願いします! 我が家の家宝にいたしますので!」
おかげで騒ぎは収束するどころかヒートアップし、彼女達は私にまで萌えの対象を広げ突進してきた。
「サク殿に近付くなぁぁぁ! 許さぬぞ、メス豚共めぇぇぇ!」
「二度目のメス豚いただきましたー!」
「妹君を庇うアナカム様、とってもおいしいですー!」
「アナセラ様、どうかイベントの時のようにアナカム様を冷たく罵って、優しく抱き締めてくださいー!」
カオスと化したこの場を収めたのは、約束の時間より早めに訪れた友人だった。
「ギニョッ、何やら楽しそうでござるな〜!」
「ドゥボッ、拙者共も仲間に入れてくれまいか〜!」
笑顔で駆け寄ってくる
すごいぞイタキモオーラ!
強いぞイタキモパワー!!
こいつら、何気に本家うぉーりあよりもバトルスペック高いんじゃね?
「いまだ気苦労が絶えないようでござるな……
「全くで候。あれほどサク殿との愛の深さを見せ付けたというのに」
「女子は、禁断の愛というものに弱いのでござる。燃え上がるのも仕方ないでござる」
「吾輩とサク殿との愛は、禁断などではないで候! 兄でも妹でも何でもないのにこんなに騒がれて、結婚に影響が出たらどうしてくれるで候!」
結婚ねぇ……ウェディングドレスよりタキシードが着たいって言ったら怒られるかな? 紋付羽織袴もいいよなぁ。
軽く未来に思いを馳せ、ニヤニヤしかけた私は、しかし慌てて妄想を振り払ってハンドルを握り直した。いけないいけない、運転中なんだった。事故って死んだら、タキシードも袴も着られなくなっちゃう。
例のイベントの後、アナザーアナザー神之臣は宣伝大使を引退。
そのまま自分の世界へ帰還した――ということにしたはずなのだが、あの公開処刑的黒歴史確定のラブシーンを見ていた人達によって、実の妹と禁断の愛に生きるためこちらの世界に残る道を選んだ――という末路に変更されてしまった。
そのせいであれから一ヶ月経った今もまだ、キュンプリの二次創作ではアナカムとアナセラのカップリングが大流行中。
何で私が攻め役の左側表記なんだよ。嫌がらせにも程があるだろ。激しく萌えたけど。即効で続きを切望するファンレター送ったけど。
ちなみに十哉は、私の説得で二月に行われる院試に挑むことになった。そして現在、看板娘ならぬ看板キャラに使えそうだと考えた式島さんに誘われ、今も神之臣姿を維持したまま『
また人前でキスするという偉業を成し遂げた効果で、ちょっと自信が付いたらしい。この頃は、彼本来の独占欲を発揮するようになって困っている。
迷惑って意味じゃなくて、磨きのかかったキショ可愛さに萌えすぎるあまり、常に動悸息切れ目眩に襲われてしんどみがえぐいの!
ついでにイベントの時に利き手に包帯を巻いていたのは、私に手を上げたことが許せなくて、あの後ずっとアスファルト殴り続けて怪我したからなんだって。ついでのついでにパン一のまんまだったから、通報されて大変だったそうな。
バカにも程があるよねぇ……勝手に誤解して、十哉の気持ちを踏み躙るような発言かました私が悪かったってのにさ。
で、お詫びに私もコンクリ百烈拳しようかと提案したんだけど全力で反対された。代わりに『痛いの飛んでけをしてほしいで候』と乞われたので、仰せのままにナデナデヨシヨシしてあげた甲斐があったのかなかったのか、今ではすっかり完治している。
ぎゃあぎゃあ喚くイタキモキショトリオを乗せて社用車で向かっている先は、例によってワンフォー。
その中にある映画館で、本日『まじかるサムライっ
「あ、サクちゃーん!」
映画館内に足を踏み入れると、ピンストライプのスーツ姿で決めた池崎が笑顔でブンブン手を振りながら走ってきた。
何だか以前よりワンコみが増した気がする。間違いなく、例の親父さんまで骨抜きにしてしまったという魔性の姫・
しかし私が挨拶するより先に、十哉がさっと立ち塞がった。
「いだっ!」
池崎が悲鳴を上げる。十哉の影になって見えなかったけど……もしかして殴った!?
慌てて無駄にでかい障害物をクリアして飛び出してみると、池崎は前髪辺りを押さえていた。
デコピンでもかまされたのかと思ったら。
「フフン、貴様の髪を入手したで候。式島殿を裏切りサク殿に近付こうものなら、これを使って呪術を施してやるで候。心得ておくが良い!」
池崎から抜き取ったらしい毛髪を誇らしげに掲げ、十哉は高らかに笑った。
「岸殿……何と恐ろしい手を! しかしこれでもう、奴は逆らえまい」
「ついに実力行使に出たか……。呪術を前にしては、誰であろうと太刀打ちできぬでござる!」
英司と卓の称賛を聞いて、私まで頭が痛くなってきた。ダメだ、こいつら……思考回路までイタキモキショイ。
呪術の触媒を入手したことで精神的優位に立ったおかげか、十哉は池崎の願いを渋々ながらも聞き届け、私と二人で話すことを許してくれた。
「ねえ……俺の前髪、ハゲてない? かなりごっそり抜かれたんだけど」
「大丈夫、まだ残機はある。彼氏も友達も、揃いも揃ってアホでごめんな」
私の答えを聞いて安心したようで、池崎は再び笑顔に戻った。
「いいよ、サクちゃんが幸せなら。本当にありがとうね。結婚はまだ先になりそうだけど、式には必ず呼ぶよ。サクちゃんは俺にとって、本物の魔法少女……じゃなくて魔法乙女だから」
そして少し離れ、私の顔を眺めて頷く。
「うん、やっぱりこの方がいい。髪型もメイクも、すごくサクちゃんの良さを引き出してる。無理矢理個性を殺して変身したあの時より、ずっと輝いてるよ」
千晶に改めてスタイリングしてもらった銀メッシュのウルフショートと、同じく彼女に教わったメイクで、私も笑い返した。
「自分だけのオトメイク、やっと習得したからね」
秘密は、メイクベースに仕込んだ非売品特別仕様のオンリーワンコスメ。成分は、恋する乙女だけが習得できる想いの魔法。
手に入れるまで苦労するけど、効果は絶大だ。
式島さんもこれで綺麗になったことを、池崎は知らないし私も言わない。十哉にも教えない。
だって恋する男も、私達乙女には内緒の魔法で輝いてるから。
私の目の前で、『サク殿に色目を使ったら呪術でバーコードハゲにしてやるで候!』『そっちこそ同じ職場だからってレイカに手出ししたら髪の毛噛み千切ってやるからな!』等と喚きながら戯れている十哉と池崎みたいに。
先行発売されているパンフレットやらグッズやらを購入すると、私達はホールに入り、映画の制作発表の時と同様に最後尾の席に座った。
しかし電気が消えるや、隣に座っていた十哉が急にそわそわし始めた。見れば、何もない空間やらこちら側の座席の肘置きやらを掴んでは離してを繰り返している。
どうやら、手を繋ごうとして失敗しているらしい。
仕方なく私は、空を彷徨っていた彼の手を掴み、ぎゅっと握った。
が、それと同時に、ボブゥッと籠もった音が轟く。
この野郎……また屁ぶっこきやがった!
くっせー! おっえー! 鼻曲がる息できねえ目も痛え! 愛しの彼女を殺す気かー!!
てか英司も卓も、何で平気な顔してんだよ!? 透明ガスマスクでも付けてるのか!?
そんなもんあるなら僕にも寄越せ、クソがーー!!
しかし、『まじかるサムライっ娘☆キュンプリうぉーりあ〜アナザーワールド〜』の開幕はもう間近。十哉っ屁などに屈するわけにはいかない。
果たしてどんな世界が待っているのか。
私達うぉーりあは子どものように目を輝かせてその時を待ち――そして、展開され始めた映像に吸い込まれ、魅せられていった。
了
超次元オトメイク 節トキ @10ki-33o
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