Extra-1「フタリノカンケイ」
「――そういえばさ、
煉の家で御夕飯をご馳走になったそんなある日のこと。リビングでテレビを見ていると、ふとした拍子に明日美先輩がそんな唐突な質問をしてくる。
「えっ、だってそりゃ、先輩ですし……」
でもそんな期待に応えられるような、話が盛り上がるような理由は特にはなかった。だからなんとも面白みのない返答をする。
「でもー昔は『明日美姉』とか『明日美お姉ちゃん』とかだったよね?」
だけれど明日美先輩はできれば聞いてほしくはない痛いところをついてくる。しかもそれが本人の口から、面と向かって言われてしまえばもう逃げ場はなくなってしまう。
「いや、それはそのー……」
そんな意地悪な質問に、私はどうしたものかと言葉を詰まらせてしまう。正直な話、この理由は明日美先輩の耳には入れたくなかった。もちろん別に言ったところで2人の関係に支障をきたすことなんてないけれど、ちょっと理由が理由なだけに言うのが恥ずかしい。
「ん、なになに?」
なのにも関わらず、明日美先輩は期待の眼差しで私を見つめてはこちらへと寄ってきてその答えを今か今かとワクワクしながら待っている。そんな先輩の姿に、私はどうにも誤魔化すことはできなくなってしまい、
「なんて言うか、先輩と距離を感じるようになった、っていうか……生徒会長で頭もよくて、学園でもすっごい人気でまるで雲の上のような存在になってて……」
正直にその理由を話すこととなってしまった。明日美先輩は学園でもダントツと言っていいほどの男女からの人気がある。それは私が聖皇学園に入った頃からもうそうだった。そしてその人気にふさわしいほどの美貌や頭の良さ。そんな先輩を見て、私は次第に自分とは住む世界が違う人のように感じていた。だから『明日美姉』というよりは、『明日美先輩』とちょっと距離があいたような呼び方に自然と変わっていたのだった。
「そんなの、気になくていいのにー」
「それに、そのっ、ちょっと恥ずかしい……とこもあって」
そう言った理由があるのと同時に、この歳でしかも私が普段はお姉ちゃんだからというのもあってなんとなく気恥ずかしさを感じて呼びづらくなっていたのも一つの理由かもしれない。
「えぇ―? 私は渚ちゃんに昔みたいに呼んでほしいって思ってるよ? 『明日美先輩』じゃ、それこそ距離を感じちゃうし」
「うぅー……」
先輩の言い分はもっともだ。完全な先輩後輩という関係よりは親しい関係にある私達。でも『幼馴染のお姉ちゃん』というちょっと複雑な関係でもあって、やっぱり決心がつかない私もいる。でも先輩はたぶんここからは逃してはくれない。そしてこういう時に限って煉は今いない。どうしたものかと考えていると、
「ほーらっ!」
そう言って先輩が私を急かしてくる。その彼女の眼差しは、もはや『無言の圧力』というのはちょっと言葉が強いかもしれないけど、そう呼んでほしいという願望で私が攻め立てられているみたいだった。
「あっ、明日美ねぇ……」
そのせいで私の心の防壁も徐々に崩れ始めていってしまい、最終的に根負けしてしばらくぶりに昔の呼び方で彼女を呼ぶ。でもやっぱり恥ずかしさがそこにはあって、目を見て呼びかけるなんてことは全くもってできなかった。顔から火が出そうなほど恥ずかしさでいっぱいで、体もすごく熱くなっていた。
「ふふふっ、かわいい」
そんな私を見たからか、さらに追い打ちをかけるかのようにその弱々しくなっている私をちょっとした小悪魔みたいな感じで笑ってくる明日美先輩。
「あぁーからかわないでくださいぃー!」
もう布団にくるまりたい。ただでさえ、呼ぶだけでもすごく恥ずかしいのにそうやってからかわれてしまうともはや死んでしまいそうなくらいに恥ずかしい。
「ふふっ、ごめんごめん。後、別に話し方もタメ口でいいんだよ? どうせ私は遅生まれだから学年は違えど、同い年なんだし」
「で、でもぉー……」
やっぱりそれは恥ずかしくて、今までも敬語で話していたから今更変えるのも何というか気恥ずかしさがあって自然な流れで変えるのはなかなか難しい気もして……それに何より私からすれば明日美先輩は憧れの存在というのもあるから敬語から急にフランクにタメ口になるは恐れ多い部分もあって……
「そ・れ・にっ! いつかはホントの明日美
色々と恥ずかしい事情があってどっちつかずになっている私に、ここぞとばかりに究極の爆弾を放り込んでくる明日美先輩。
「ッ!? ちょっと! な、なな、何ヒッてるんですきゃっ!?」
本当の明日美姉だなんて……そんなの、ど、どうなるのかなんてわからないんだし、今はまだお、おお、お付き合いという段階で、そういうのはまだまだ全然考えてないっていうか……
「えー煉と結婚、したくない?」
「いや、そりゃしたいですけどぉ……でもぉ……ってちっがーう!」
危ない、危ない。明日美先輩のペースにもってかれて妄想劇場に陥るところだった。私の心の内を丸裸にされて、明日美先輩に聞かれてはいけないことまで言ってしまうとこだった。
「ふふふ、かわいいぃー!」
そんな私を見て相変わらず私を弄ぶかのように、私の頭を撫でながら私を愛でていた。何から何まで明日美……姉にしてやられてばっかだ。やっぱり彼女には勝てない。早くも将来の
Destino 瑠璃ヶ崎由芽 @Glruri0905
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