俺の日常は結局こんな感じ


 一人一枚ねえとな、やっぱ。


「ござって素晴らしい。ぜってえ死ぬかと思ってたのに、こいつに救われたぜ」

「ふふっ。私が温めてあげればよかった? なんなら今から……」

「脱ごうとすんな。どうせ下着ん中にナイフ隠してんだろうが」

「ちょっとガルフ! それどこじゃない! メルクが息してない!」

「いつもの妄想だろ? 叩けば起きるって。ほれどっこいしょー!」

「ごひん! ……はっ! 夢!? 酷いのです! 初めて屋形船に乗れたのに、せめて向こう岸まで堪能したかったのです! ああ、銅貨六枚も払ったのに……」


 やれやれ、朝日も出る前からやかましい。だが空が白み始める様を眺めるのは旅の醍醐味の一つだ。そんな光景をこいつらと共有できるなんてこの上ねえ幸せだ。


 いつ果てるとも知らねえ命。だったら、今、楽しいかどうか。

 人生ってやつを難しく言う連中はごまんといるが、そんな感じでいいんじゃねえかって俺は思うぜ。


「……いけね。肝心なこと忘れてた」

「なによ。どうせまたバカでくだらないことなんでしょ?」

「ひでえ。真面目な話なのに」

「……悪かったわよ。なに?」

「オアシスの女神、ゼキテルちゃんをハーレムに入れそこなった」

「相手は神様よ!? 見境なしか!」

「うふふ。ガルフォンスはほんとに種族にこだわらないのね。素敵」

「いえいえ、さすがにバチがあたってしまうのですよ」


 結局あれからどれだけ旅暮らしを続けても、一人もハーレムっが増えねえんだが。今度こそものにしてやるぜ!


「俺は諦めねえぜ! 必ず、朝は来る!」


 力強く立ち上がる俺を見つめる三人の目が、ゆっくりと東へ向く。

 すると、果てしなく続く砂地を黄金色に輝かせながら朝日が姿を現した。


 そう、必ず来るんだ。


「朝ね……」

「きちゃいましたね……」

「どうすんのよガルフ!」


 日の出から、まだ間もねえってのに。

 どうなってんだこの砂漠。

 陽が照り付ける。たったそれだけで……。


「あついのですーーーー!」

「なんで屋根無いのよ!」

「ああ、さすがに今日こそ死ぬかもね」

「うるせえ、黙れ三バカ」


 砂漠のど真ん中に突き立てられた鉄格子を掴んでみたが、びくともしねえ。

 ちょっと粗忽がオアシスの水を枯らしちまったくれえでそこまで怒るなよゼキテルちゃん。


「こんな棒、簡単に倒れそうなのに! なんでびくともしないのよこのっ! このっ!」

「神罰、レベルがハンパねえのです」

「王都から助けが来ても、どうしようもないんじゃないの?」

「ちきしょう、覚えてやがれ! 俺はねちっこいんだ!」


 もう、鉄格子も持ってられねえほどの熱さになった。

 口を閉じてねえと水分が無くなる。ござで日よけをしねえと一瞬でぶっ倒れる。


 そんな状態だが、それでもこれだけは言わねえと!


「ほんと覚えてろよ! ぜってえゼキテルちゃんをハーレムに入れるからな!」

「「「そっちか!」」」


 美女三人から殴り倒されて、砂に頭を突っ込んだ。

 だが、俺は知ってるぜ?

 てめえらから食らう苦労なんて屁でもねえ。


「ぺっ! ぺっ! ……いいか、お前ら。冒険ってやつは、一つわりい方に転がると、その一つ目が可愛いもんだったって方に思えるほど悪化してくもんなんだ」

「なーにを偉そうに。どうせおじ様の受け売りでしょ?」

「いや違う。これは親父から教わった言葉じゃねえ。自分で掴んだ、俺自身の言葉だ」


 そう、先人の道を慕い歩き、そしていよいよ自らの道を進み出す。



 俺は、大人になり始めたんだ。



 アイシャが、ジルコニアが、メルクが俺を見上げる。それぞれが、一体どんな思いでいるのかは分からん。


 ……だが、きっと大人への一歩目を祝福してくれているんだろうな。

 だってもう一人、俺の言葉が正しいことを証明するために舞い降りたし。


 俺達と目と鼻の先に着地した野良グリフォンが眠そうに大あくびした後、砂浴びを始める。


 すると俺達は、あっという間に背の高さ程もある砂の波に飲まれちまった。


「ぷはあっ! ……な? 俺の大人の名言、合ってるだろ?」


 そして砂からなんとか顔を出して同意を求めてみたら、同じように這い出してきた三つの首が、異口同音に、大人になり始めた俺を褒めたたえたんだ。



『貴様は一生子供でいろ!』



 ……あれ? 褒め言葉、おかしくねえか?

 まあいいや。砂のカサが増したから、鉄格子の上まですぐになったぜ? このチャンスを生かそうじゃねえの。


 アイシャがバカ力で砂から抜け出してメルクを引っ張り上げる。

 次に、メルクがジルコニアを引っ張り上げると、今度はジルコニアが鉄格子に上ってロープを下ろす。


 流れるようなコンビネーションで牢を抜け出すと、ゼキテルちゃんが虚空から雷を出現させてきやがったから慌てて駆け出した。



 ……まったく。

 俺達の日常は、いつもこんな感じだ。


 来る日も来る日も大冒険。

 


 そう、いつも。



 いつまでも……。




「おい。俺だけ埋まったままなんだが?」


 そう、いつもお前らは。


 こうして俺の事を、殺そうとしやがるんだ。




 FIN.



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俺が選んだ! 俺のハーレム娘達が!! 俺の命を狙ってる!!! 如月 仁成 @hitomi_aki

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