最終話.異世界坂

 ルアス城内は、散々な様子だった。

 セリカの言う通り、ボロ負け、くっそみそに負けてボコされた軍がそこにあった。


「聖剣士宇田が帰還したぞ!」


 皆がボロボロの姿で俺を出迎える。

 ルアス城内はまるで野戦病院のようだった。


「おう、俺が返ってきたからには奴等に目にもの見せてやるぜ」


 俺の帰還を喜んで出迎える沢山の雑兵達に手を振る。

 どうやら俺の帰還によって軍の士気が上がっているようだ。

 だが、嬉しくてバンバンと背中を叩いてくる兵士のせいで左手首が痛い。

 うぜー近寄ってくんな。


「万歳! 聖剣士万歳!」


 喜んでいる兵士達には悪いが、今となっては空しい響きに感じた。




---ルアス城 俺の自室



 ルアスやアイーダの歓迎を受けた後、俺は気分が悪いからと自室で休ませてもらう事にした。

 実際、左手が無いのは体調に影響があった。

 血が足りない感じはするし微妙に左右で体重が違うので歩いたり走ったりするときに違和感がある。


 

 ……ルアスの焦燥ぶりは傍目に見ても分かった。

 人間、守勢に回ると本性が現れるものなのかもしれない。

 

 だが、今の俺にとってはどうでもいい事だ。

 既に俺の心は決まっている。




「さて、荷造りするか」


 俺は金目の物を掻き集めた。


「ご主人様、どこかへ行くんですか? ミーもリアムさんも、とってもご主人様を心配してたんですよ」と、ミー。


「逃げるんだよ、こんな敗色濃厚の場所にいられるか。さぁ、お前達も早く準備しろ」


「はいです!!」


 俺達は自室の、装飾品や絵画、金になりそうなものを掻き集めまくった。

 退職金代わりとしては悪くない。



「このままバランバランでずらかるぞ!」


「ごめんね魔王様、りあむ、一緒に行けないの」


 さぁ出かけるぞ、という時にリアムは一人、部屋の中から出ようとしなかった。


「は?」


「リアムはね、教団の巫女だから」


「教団ってなんだよ」


 問うが、リアムは押し黙ったままだった。


「まぁ、しゃあないな。これまで有難うな」


 礼を言うのも何か違うかもしれない。

 何しろこの女は俺をこの世界に引きずり込んできた元凶だからだ。

 でも、今では憎めない何かになっていた。


「運命はね、さだまってるんだよ、初めから決まってるの。リアムたちは、同じ場所に辿り着くために動いてるの」


「元気でな」


 頭をポンと叩いて、ミーと一緒に部屋を出る。

 滅茶苦茶泣きそうな顔をしながら、リアムは俺を見送っていた。






 金目のものと奴隷を載せたバランバランは空高く飛び上がった。

 ルアス城が、仲間たちがどんどん遠く離れていく。

 夜空を、ゴーレムが噴き出す魔力のカスがキラキラと光りながら照らしていく。


 あの空の向こうにはどんな世界が待っているんだろう。

 俺は手首の痛みも出血多量で朦朧とした気怠さも忘れて心躍らせた。










---エピローグ 数ヶ月後



「最高ですかー!?」


 俺は叫ぶ。


「「「最高でーーす!!!」」」


「皆さん最高ですかー!?」

 ミーが問う。


「「「最高でーーーす!!」」」



 数百人の野党の集団。

 もとい宇多軍は戦争中に傷ついた戦火の村々を救うためにNPO活動(りゃくだつ)を行なっていた。


 俺はバランバランで、部下達は馬を操り略奪目的の村を目指す。

 今ではこの辺ではちょっと名の知れた盗賊団となっていた。



「うしし、今日もがっぽりいきますよ」


「宇多の大将、斥候から連絡だ。正規軍の奴らが来やがった! 恐らくまたガンバインでっせ」


 俺が暴れすぎたおかげで最近は討伐対象になったらしく、頻繁にこの地域のお上に狙われていた。

 その中にはセリカもいた。

 あいつもあいつで頑張っているらしい。


「任せとけ、お前らは銀貨一枚も取りこぼすんじゃないぞ」


「「「合点!」」」


 地上を疾走する騎馬と死の群れは上空のバランバランが庇護する無敵のそんざいである。

 誰も彼らに手を出すことはできない、この俺がいる限り。


「あ、ご主人様。オークさんが死にそうですよ」


「アーアーアーアー……」


 盗賊団の輸送部隊の荷馬車には、財宝の他に俺の大切な物、いや、俺の友達が乗っていた。

 あの時、俺の左手を切り落としたオークである。

 一時は恨んだが、今でな大切な友であり心の支えであった。

 彼と一緒にいる時、俺はひと時安らぎを得られる。


「呼吸止まっちゃいました! 死んでしまいます! ヒールヒールヒール」


 ミーが必死に回復魔法をかける。


「ほろひてぇ……ほろひてぇ……」


「頑張れ、マイフレンド! 生きるんだ!」


 両手両足、舌を引っこ抜いて腎臓も一つ抜かれたオークは最初の威勢を忘れて死を懇願する毎日である。

 毎日回復魔法を受けながら生と死のギリギリを彷徨い、俺の心を癒してくれていた。


 このオークが居る限り、俺はこの世界で、ヴェルンガルドで頑張れる。






「来た、やっぱりガンバインだ! 大将、たのんまっせ!」


「よっしゃあ、いくぜえ!」


 機械ゴーレムを操り、俺は飛翔した。

 蒼い空がどこまでも広がっていた。


 俺はようやくまだ登り始めたばかりだからよ、このはてしなく遠い異世界坂を。



 第1部 異世界突入編 完














---あとがき


<(..)>


「ご主人様、それは一体……」

「奴隷ちゃん、これはね。土下座って言うんだよ」

「DO、GE、ZA……?」

「心の底から謝罪する時に使う、日本人が持つユニークスキルなんだ」

「はわわ、凄いです、流石ご主人様ですぅ」

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聖剣士ガンバイン @mokomoko4545

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