娘の心が壊れた音がした


あの後必要最低限の物だけ持った椿つばきしずくは新幹線に乗り故郷に帰ってきた。

自宅に着くと玄関には警察が大勢いたが椿はそんなのお構い無しに警察達を押し退け玄関で靴を脱ぐ。


「 ( パパがいない ) 」


故郷へ帰ると必ず優しい笑顔で迎えてくれた父がいない事に違和感を感じ溢れそうになった涙を拭い部屋へと歩いて行く。

昔から勘と鼻が良かった椿は部屋へ入り僅かに父の香りがした事に眉間に皺を寄せた。


「 ( パパがいないのにパパの匂いがする ) 」


すると部屋の奥から警察とようの前妻の紅葉もみじとその息子、鹿ろくが出てきて椿を優しく抱きしめた。


「 ごめん、ごめんな、椿 」

「 つらかったなぁ、泣いてもええんやで 」

「 ……私は泣かないよ 」


2人の腕から離れ父が自殺をした部屋へと行く。

警察がいるがお構い無しにズカズカと。

元々縄張り意識が強かった椿には家に知らない人が大勢いる事が気持ち悪くて仕方なかった。


「 ( パパが死んだ場所 ) 」


椿は視線を少しズラし壁に貼られてあった写真を見て目を見開いた。

その写真とは椿が幼い頃の写真で。

七五三参りに行く前に撮った写真だと記憶している。


「 パパ…なんで… 」


実は椿が故郷から離れたのには大きな理由があった。

そのうちの1つが父からのDVだ。

小学生の時や中学生の時はほぼ毎日と言っていい程殴られていて。

勿論椿が悪い時もあればそうじゃない時もある。

それが嫌で逃げ出したなんて笑ってしまうが椿にとっては笑い事じゃなかった。


「 少しいいかい? 」


唖然とその写真を眺めていると1人の警察が椿に声をかけた。

椿は過去あんな事があり成人男性が大の苦手だが相手は警察だからいきなり投げるわけにもいかず嫌そうな顔で話を聞くことを決めた。


「 なんですか 」

「 …実はね君のお父さんのズボンのポケットに写真と数珠が入っててね、指には結婚指輪がしてあったんだ 」

「 写真? 」

「 うん、荷物は今こちらで預かってるからまた後で見てほしい、ほらお母さんが呼んでるよ 」


椿は沈に呼ばれ居間へと足を向けた。

あぁ何か嫌な予感がするな、と思いながら。

部屋に戻ると机には1冊のノートがあり無意識にそのノートに手を伸ばす。

パラパラと捲るとそこには父の遺書が書いてあった。

椿と沈がいない間にやってしまった事や何があったのかを簡単にだが書いてあった。

1文字1文字を丁寧に書いてあり間違いなく椿の父の字であった。


瓜田かでん李下りか… 」


そしてその一文と最後の1文字に目が止まったと同時に椿の中で初めて人を殺したい、と思ったのだ。


〔 自分は瓜田李下に殺された 〕


〔 怨 〕


「 (コイツがパパを死ぬまで追い詰めたの?) 」



ネジと歯車が1つまた1つと外れていった。

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娘は二十歳 長月 満 @sumire0609

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