本作のタイトルにある「詛」という漢字について辞書を引くと、「呪い」と「誓い」という2つの意味が記されています。
一見両者は全く異なるものように考えられますが、人がその想いによって人を束縛するという意味においてこの2つはコインの裏表の関係にあると言えます。本作ではそうした「言葉が持つ多面性」もテーマの一つとなっていると言えるでしょう。
上述のように著者が言葉一つ々々を大事に扱っている点も本作の魅力かもしれません。
ストーリーとしては、主人公の八白さんと結が協力して不可思議な事件を解決(と言い切れない場合もあるのですが……)しながら物語の根幹に関係する怪異に迫っていくというものになっています。その中で様々な伏線が張り巡らされているのですが、その内容が実に緻密に出来ていて、終盤はまるで問題集の答え合わせをしているかのような爽快感を味わうことができました。
また、作中随所で垣間見られる民俗学的エッセンスは、小野不由美先生の「悪霊シリーズ(ゴーストハントシリーズ)」にも通ずる所があり、同作が好きな読者であれば特におすすめしたい作品です。
この物語は、強い力をその身に秘めたる妖狐の八白と、好奇心が強い男子高校生の神谷結が、世間を騒がせる怪異を解決していく話……というのは表面をなぞっただけの説明である。
彼らが行うのは、人助けであって、人助けではない。自分達の目的があり、それを果たそうとするがゆえに善行を積むのである。八白は、人を深く知るため。神谷結は、八白を深く知るため。それぞれの思惑が混じり合い、時としてすれ違い、物語は進展していく。
この物語で最も評価できるのが、妙な誤魔化しやご都合主義で済ませずに、何事にも腑に落ちる理由をつけて読者を納得させる点である。何か行動を起こすならば必ず動機があり、成功や失敗があったならば相応の理由がある、といった事を、短すぎず長すぎず、適切に物語に織り込んでいる。
筆者曰く『リアリティとは、現実味ではなく納得感である』との事であるが、正にその持論を貫き通した一品であり、ただただ、この物語はなるべくしてこのようになっている、と納得し通しであった。
小さくて可愛らしく、それでいて老獪で頼れる。過去に想いを馳せることもあれば、いま目の前にある稲荷寿司も楽しむ。そんなロリババア然としたTHE・ロリババアが八白さんです。『社の八白、詛を解く』という作品は、きっとあなたのロリババア欲を満たしてくれることでしょう。
過去への未練を抱きつつ、主人公・結くんを時に厳しく時に優しく導き、未来へと歩んでいく八白さん。彼女の生きる悠久の時の流れの一端に、あなたもぜひ触れてみてください。
6話に登場する間宮大佐夢さんもよろしくお願いいたします。飄々として自分の感性を何より重要視する画家は、結くんに何を語るのか。必見です。
この小説のテーマは『執着』『成長』そして『ロリババア』だ。
各々の『執着』により現代で怪異に触れてゆく数々の人間が、怪奇事件の先で『成長』する。主役も脇役もほぼ例外はなく、作品に登場する様々な人物から人間性を感じ取ることができる。
そして、物語の主人公の一人、八白さんという老成した人外であってもそれは例外ではない。むしろあやかしの側の生き物であるが故に、作中での変化は目が離せないものになっている。
この小説は奇をてらった事はしていない。雑な属性付与による飛び道具も使わない。ただ、テーマにした題材に対し、真摯に向き合って練り上げられた物語だ。
是非ともこの物語を、そして人物の在り方を味わうように読んで欲しい。