余談 付け加える

「八白さんって、人形作れたんですね?」

「まぁ、作ったと言ってもベースはパーツを買っただけじゃけどな」

「へー、そういうのも売ってるんですね」


 俺と八白はいつもの居間でお茶を飲みながら世間話をしている。話題はゆかりの体についてだ。

「買ったパーツにあれこれと手を加えたから、作ったと言えなくもないんじゃがな。縁のたま入れも含めて、一仕事じゃったわ」

「手を加えたって?」

「魂が定着するように術をかけたり、髪型や顔を整えたり、とにかくいろいろじゃ。お前が風邪で倒れとるあいだくらいの時間はかかったんじゃぞ」

「1m以上の大きさの人形なんて結構高かったんじゃないですか?」

「そうじゃな。パーツ一揃いで15万くらいだったかの?」

「うわぁ」


 自分の小遣いと比べて、その金額に声が出た。

「よくそんなお金ありましたね」

「んー、使っておらんからの」

「って、いうか稼いでるんですか?」


 八白が仕事をしているとは知らなかった。

「通販で魔除け札を売ったりしとる。効果は確かじゃから、それなりに人気じゃぞ」

「通販って……パソコンとか使えるんですか?」

容易たやすいわ。メールも使いこなしておったじゃろうに」


 そういえばそんなこともあったな、と思い出す。だが、術と組み合わせてどうこうとも言っていたような……。

「けっこう、年の割に柔軟ですよね。八白さんって」

「“年の割”は余計じゃ。阿呆」


「それにしても、15万もポンと払えるくらい魔除けの札って儲かるんですね」

「まぁ、それなりにの」

「俺もやろうかな」


 八白の顔が怖くなる。

「やめておけ。何かあったときに面倒じゃ」

「……札を作った人間に影響する呪い、とかあるんですか?」

「それよりも“効き目がない”とか“届くのが遅い”とか、そういうクレームの方が面倒じゃ」

「俗っぽい理由ですね」

「俗っぽいのはお主もじゃろ」


 何も言い返せない。八白が続けて言う。

「大体、そんなに金を貯めてどうする気じゃ?」

「そりゃ、いろいろ買いたいし、有って困る物じゃないですよね」

「間宮とか言う画家からそれなりに貰ったんじゃろ?」


「貰いましたけど……そういえば、まだ手を付けてなかったな」

「それどころじゃなかったからの」

「そうですね。何買おうかな」


 ぺたりと座布団に座ってテレビを眺めながら、その会話を横で聞いていた縁が言った。

「おとうさん かせぐ たいせつ」

「“お兄ちゃん”だよー」

「おとうさん」

「諦めろ。儂らに似て頑固な子じゃから」


 納得と共に苦笑してしまうが、嫌な気はしない。たしかに縁は、八白にも似ているし、俺にも似ている。それなりに――それなり以上に紆余曲折があったけれど、それを思い出すと今、縁がここにいてくれることが嬉しかった。


「あの、八白さん」

「なんじゃ?」

「縁の身体にかかったお金、半分出させてください」


「どういう風の吹き回しじゃ?」

「自分も何かしたいな、と思いまして」

「子供が何を言っとる。自分のことに使え」

「俺、まだ子供扱いですか?」


 ぐいっと顔を近づける。ジッと目を見つめると、八白が目を泳がせた。

「わかった。好きにせい」

「よかった」


「おかあさん かわいい」

 縁は言葉をどんどん覚えている。たまに驚かされる。

「これ、よさぬか。縁」

「八白さん かわいい」

「結!調子に乗るな!」


 もう一度、ジッと目を見つめる。


 八白の小さな指が俺の目を突いた。

「何度も通用するわけないじゃろが!阿呆!」

「すみません……」

「おとうさん よわい」

「縁、それは違うぞ。んじゃ」

「ほんと、そうですね……ほんと」

 俺は目を押さえながら言った。



余談 付け加える 終

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