最終話

「まぁいい。それよりもまた雑魚が増えたぞ?」


「気配でわかってるんですが……どれだけ邪魔が入るのかだけは……」


「違う岩戸からも出てきてるみたいだ。粗方始末はしてきたが全部というわけにはいかなかったから、こちらにも来るだろう。それよりも子供を養子とはまた……」


「那智にもそのうちわかる時が来ますよ?皆さん雪翔のことよろしくお願いしますね」


 軽くお辞儀をし、日が沈むのを待つ。

 狐達はみんな影に入れ、漆と琥珀も何も言わずとも時間が近付くにつれやって来て、素直に中に入った。


「冬弥様、私も雪翔さんのそばに……」

 と朱狐が言うので、今回だけはダメだと諦めてもらい、準備を始める。


 飛ぶ場所から陣形まですべて決めてあり、鳥居から離れたところに、雪翔達が陣取っているが、屋台と屋台の間。それも人の少ない方にいるため邪魔にはならないだろう。


 社の上に飛び乗り、時間が来るのを待つ。


 19:00丁度にぼんやりしていた鳥居の上の影がはっきりしだした頃、「行きます」と誰に言うわけでもなく、社から高く飛び立つ。


 しばらくの間なら空中を蹴って飛べるが、長くは持たない。そろそろかなという所で雑魚どもも来始め、階段ができてくる。


 駆け上がると言うより飛び上がりながら上を目指す。


 横に壁があるので、みんなのサポートと壁でなんとかしのげているが、残り3分の1を切ったところで「これ以上は階段も届かない!飛べ!」と那智に言われる。


 今までで一番の跳躍をしながら、少し手強い大物も爪で引き裂き、それをさらに足場に飛ぶ。


 が……見えた!と思った瞬間、後ろ足を掴まれ失速し、下に降ろされそうになる。


「くそっ!」空中で止まり対峙するも、鳥居は段々と薄くなってきている。


 時間制限なんて聞いていないと思い、幾度か攻撃を凌ぎ、胸を切り裂いてそれも足場に飛ぶ。



 届け________




 ザワザワした音がなくなり、手を伸ばしたまま、ここまでか……と思い最後の力を振り絞る。


 ふと、下を見るとみんなが社の上から飛べー!と言っているのがわかる。


「後……少し……」


 鳥居の受けに指先が触れた瞬間、誰かに押し上げられたような感覚と共に鳥居の上に立つ。

 横には漆と琥珀。


「飛んだな」


「はい」


「最後に力を出し切ってしまった。影にもどる」


「はい」


「冬弥、見えてなかっただろうが、かなりのモノを皆が片付けてくれたお陰だと忘れてはならん」そう言って琥珀も戻っていく。


 下を見ると明かりが小さい電球のように見え、辛うじて社に人がいるのが見える。


「こんなに高いとは思いませんでしたねぇ……それに、風も音もない。後は降りたら終わりでしょうか……」と空を見上げる。


 その時月が真上に来ていて、そこから眩しい光が溢れたと思った瞬間、暖かい光に包まれた。


 _____見事


「誰ですか?」


『誰でもないと今は言っておきましょう。ここから降りれば貴方は仙です。更なる高みを求めますか?』


「どういう意味でしょうか?」


『貴方が知りたかった天孤への道へ……』


「ここから離れるということですか?」


『ほんのしばらくの間だけですが』


「行きます」


『ならば、最後に社の上の方々に姿を見せれるようにしましょう。その後共に……』


 体が軽くなったと思ったら宙に浮いていて、月を背にみんなの顔が見える。

 驚いた顔をしていたが、いつものように腕を組み、笑ってから無言でそのまま月の方へと吸い込まれていく。


「待っていてくださいね」たった一言。


 届いたかどうかは分からないが、最後に目に入ったのは泣きそうな顔をした雪翔。


 目を瞑り声のした方へと身を任せ姿が消えると同時に、月の光の中へと溶け込んでいった__




(下宿屋 東風荘1 終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

下宿屋 東風荘 浅井 ことは @yuzuwhite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ