第54話

 それから祭りまでは力を温存し下宿屋の仕事をするだけで、遅れていた雪翔の制服を作りに行ったり、増築の手配をしたりしただけで、祭り前夜には雪翔と栞に手紙を書き、準備を整える。


 やはり、飛ぶだけと言うのに納得していなかったからかもしれない。



「今日は祭りなので、皆さん晩ご飯は屋台で済ませてくださいね」


「うん。俺イカ焼き食べる!後たこ焼きに、焼きそばに……」


「えーと、お腹壊さない程度に……今年はいつもより人も増えると思うので、注意してくださいよ?」


「大学にもポスター貼ってあって、周りの連中も行くとか言ってたな」


「高等部にもあったよ?そんなに大きいの?」


「千年祭ですから毎年するのとは規模が違うんですよ。花火も上がるみたいですねぇ」


「花火?」


「栞さんはあまり見に行かないですか?」


「夏は見ますけど、祭りで上がるのは見たことは無いです」


「それだけ大きいという事です」


 朝食後、自室の方へと雪翔を呼び、今まで考えていたことを話す。


 飛べなくても仙狐になれるが、仙狐の中でも格付けがあり、飛べば二段階目のかなり力を持った仙になれるという事、その先は無いとされているが、天狐と言うものが存在し、この千年祭でも飛んだ狐は殆ど居ないという事。

 居ないからその先がわからず、話にも出てこないのだが、自分は飛んだ先にさらにまだ何かあると思っていると言うこと。思うことはすべて話、囲炉裏の茶箪笥を開け、隠し扉の開け方を教える。


「昔はからくり箪笥と言われていたもので、結構難易度の高いものなんですけど……っと、開いた。ここに、現金、通帳と印鑑があります。何かあったら使ってください」


「え?何か……って」


「飛んだ後それで終わりならよし、そうでなければ、何が起こるのかわかりません」


「でも……」


「いいですか?ここに手紙を入れておきます。私に何かあれば栞さんと二人で読みなさい。那智や秋彪、秋彪の兄の玲は必ず守ってくれますし、困ったことがあれば相談しなさい。雪翔はまだ子供です。頼れる所には頼る。感情も押し殺さなくていいんです。笑ったり泣いたり怒ったり沢山しなさい」


「最後の言葉みたいに言わないでください」


「何かあっても、私は息子の雪翔のところへ戻ってきます。ただ、妖の世界では何があるか分からないんですよ。それよりも、体調はどうですか?」


「大丈夫です」


「今日、お客さんが来ます。変な方ですけど、幻想世界というものがありましてねぇ。そこの姫様です。見えませんが」


「姫様?」


「見た感じは普通の女性と変わりませんけど、言葉遣いが荒くてですねぇ。雪翔が寝ている間も診察に来てくれました」


「お医者さんなんですか?」


「薬屋なんですけどねぇ、医師免許も持っているので腕は確かですよ。ただ、かなり高額ですが」


「ぼったくり……」


「まぁ。そうですね。味方にしたらかなり強力な人に間違いはないですが。そこの住所も書いてありますから」


「僕は、階段作って帰ってくるのを待ってたらいいんですか?」


「はい」


「もし僕が階段を作らなかったら?」


「雪翔はそんなことしません」


「したら?」


「信じてます。だから、雪翔も私を信じてください」


 お昼過ぎからは皆に会って、作戦会議ではないが、手順の確認をすることになっているので、お昼は簡単に済まし、もう来ているであろう待ち合わせの場へ行こうとした時に、玄関がドンドンと叩かれる。


「誰ですか!乱暴な__」


 扉を開けると父と兄が立っており、思わず何しに来たのかと聞いてしまった。


 ズカズカと入ってきて、囲炉裏の前に腰を下ろしたので、仕方なくお茶を入れる。


「あちらはどうしたんです?」


「ちょっと見学に来ただけだ。社での千年祭は見たことがないから来ただけだ!儂等は殆ど昇格で上がっただけだからな」


「冬弥、栞さんと一緒に住んでるのでは?」


「下宿にいますよ?今は雪翔と社の方へ行ってますけど」


「孫の顔も見に来た!」


「そうですか。でもまだまだ時間がありますよ?夜からですし」


「その時間祭りとやらでも見ておるわ」


「案内できませんが……」


「冬弥、連絡があった。何を考えておるかは知らんが……後のことは任せておきなさい」


「え?」


「昔から探究心のある弟を持つと、こちらが大変だということですよ。父上も承知ですが、あまり心配をかけてはいけません」


「お見通しですか。でも、本当に分からないんですよ。どの記述にも飛んだ後のことは書かれていませんから」


「好きにするといいが、子供を泣かすな。その子供、儂等の甥と孫にするのに契約はさせてもらうぞ?」


「構いません」


 では後でな……と家を出て街に出ていったので、祭りを楽しみに来たのには違いないと思い、みんなのところへと行く頃には、日も沈みかけていた。


「遅い!」と那智に一喝され、父と兄が来ていることを告げる。


「さっきまで薬屋の店主が雪翔を触りまくってたぞ?」


「秋彪、それ止めてくださいよ」


「怖いからから嫌だ」


「嫌って何ですか?あ、栞さん、今夜は雪翔と私の家の方へ行ってもらえますか?雪翔も疲れると思うので、薬屋の結月さんが見てくれると思います。ね?結月さん」


「なんだ、気付いてたのか」


「ええ」


「周りを見てきただけだ。それにしてもこの雪翔を養子にするとはな。今回だけ頼まれてやる」


「お願いします」


「で?俺と那智さんと秋彪で暴れたらいいのか?」


「はい。雪翔は栞さんと結月さんにユーリさんがいてくれるので、問題ないと思いますし、紫狐も付いてます」


「私達もか!?」


「興味あるでしょう?」

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