2-2 【異能力法なんて知らない】

千歳ちとせと別れて、2時間後…。

女の子のところに向かおうとしていた恭だったが


「…話が違うんだけど」

「なんだゴルァ‼︎」

「さっさと力だせゴルァ‼︎」


危なそうな輩に十数名に囲まれていた。オーラの見えるきょうに取って、彼らが普通の人間ではないことが明らかであった。彼らは異能力者だ。千歳ほど濃いオーラは見えないものの、人数が集まることで、それなりにすごそうだ。


「…なんのようですか?」

ニッコリ、という効果音がつきそうなほど綺麗に微笑む。めんどくさいときは基本笑顔で対応するのが、恭の癖だ。残念ながら、ここは空き地で、周りに人はいないので助けを呼べない。


「オラの彼女がな、好きな人が出来たっていうからフラれたんだっぺよ‼︎金髪のイケメンだって‼︎調べて見たらよ、お前じゃねぇかよ‼︎」

背が低く、ガタイのいい男が、独特の話し方で話し出す。

「…だから何です?」

恭にとって、逆恨みは日常茶飯事だった。王子である恭に乗り換える女の子も少なくない。こんな時こそ笑顔で乗り切る。


「普通の人間ならな素直に断ち切ったよ、でもお前異能力者じゃねーかよ‼︎」


え…?

まさかの展開にびっくりする恭。異能力者だから、喧嘩を売りにきたのか?そもそもオレは3日前になったばっかりだよ?そしてまだ使ったことないよ?頭を回転させる。しかし、あまりにもイレギュラーな展開で、言葉がうまく見つからない。


異能力者軍団は言葉を続ける。


「異能力法第14条 人間世界で人間に危害を加えることを一切禁ずる

異能力法第8条 異能世界での闘争を一切禁止する。ただし異能世界以外での異能力者同士の闘争は認める


有名な話だよなぁ?」


いや、ごめん、初めて聞いた。


千歳がそれっぽいことを言ってたがあれは異能力者喰いの話であって、人間こっちの世界では闘争もいいのかよ。そっちのほうが迷惑だろう。しかし、知らないというと、またややこしいことになる。恭は黙った。この人数だし、弱いと思われてはいけない、不意にそう思った。


「…オレ一人に対してこの人数って恥ずかしくないのか」

「っうるさい!リーダーはオラだ!オラが行くっていったらみんないくんだ!」


このアホそうな男がリーダーかよ。

恭はため息をついた。本日何回目かのため息だ。ため息ついたら幸せにげるよ〜〜、とか言いそうな別のアホの顔も浮かんだが、頭の中から始末した。あ、そうだ、笛で呼ぶか。


恭はおもむろに笛を取り出す。

ビクッとする敵たち。こいつら大丈夫かな、と思う恭。普通に喧嘩して倒せそう。怖いからやめとこ。


恭が笛を吹く。

フィー…

「……」

「……」

フィー…


音は出る様子がない。え、なにこれ、ゴミ?アイツオレにゴミ渡してきたの?


「てめぇぇえ!それゴミじゃねぇかよぉぉぉお!なんだよぉぉおお!!!」

リーダーを皮切りに、次々に騒ぎまくる敵たち。オレの気持ちを代弁してくれた、と恭は少しスッキリした。


あのアホ絶対に許さない。


「テメェェエ!!ミカちゃんを奪った恨み!覚悟しろぉぉお!」

リーダーが恭を襲ってくると同時に、十数名の仲間が一斉に恭に襲いかかってきたー…





***



ホップステップジャンプ、を体現したような滑らかなジャンプで、千歳は屋根から屋根を飛び越える。普通の人はまさか屋根の上に人がいるとは思わないので、誰も千歳には気づいていない。


千歳は空き地の端にあるブロック塀に飛び乗った。


「恭君、呼ばれたから助けに来たよ〜〜ってあらら」


千歳の前には、苦しそうに倒れる男たち。

その奥には、頬や腕にに黒い鱗が張り付いた恭がいた。フーッフーッと浅い息を繰り返している。


真っ黒だった瞳は、いつのまにか金色のガラス玉のような目で、中心に黒い線が入っている。蛇のような瞳だ。

元が美しい恭だからこそ、この瞳がとても似合っている。千歳は惚れ惚れした。


「素晴らしいね…」



千歳はそう呟くと、恭く〜〜ん!とにこやかに手を振った。恭は千歳に気づくと右手をスッと前に出した。


ビュンッッ

「ぎゃっ」

ドゴォッ


千歳の右手から放たれた鞭のようなものが、千歳が立っていたブロック塀を攻撃する。千歳は足元が壊れてしまったが、スルリと地面に降りた。


「なんで俺まで攻撃するの〜〜」

へこむ〜、というような顔で恭の元にかけよる千歳。


「アンタあの笛ゴミだっただろ。全然鳴らなかったんだけど」

「あ、あれは超音波笛だから音でないよ〜〜。だから来たんじゃん!届いてたよ」

「な…」

唖然とする恭。初めにいってくれよ。そんな顔をしている。


「ところで、異能力自分のものにしたんだね〜〜おめでとう〜〜」

能天気に話す千歳。焦っている様子もない。まるで、こうなることが分かっているかのようだ。


もしかして…と恭の顔がみるみるこわばる。


「こうなること、知ってた?」

恐る恐る恭が千歳に聞くと千歳はきょとんとした顔をした。

「いや、だって、火事場の馬鹿力って言うだろ?いつも澄ましてるか恭君もヤバイ状況になったら、自然と力を解放するかと思って…」

だからコイツ突き放したような言い方したのか。オレの絶体絶命にしようとしたのだ。オレに入った異能力の種を開花させるために。恭は納得した。


「まぁ、結果オーライじゃ…ギャァア」


なんとなく癪に触るので、千歳が喋り終わる前に千歳を攻撃するの恭。千歳はどことなく楽しそうだ。



「テメェェエら…」

背後から起き上がる気配がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さな鵺は静かに嗤う 床波 @tokonamimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ