第2話 【道場破りと異能力】

2-1 【異能力デビュー果たしました】

あの悪夢の日から3日経った。


柏木恭はあの後冷静だった。受け入れてしまったものは仕方がない。とりあえず帰る、と杉山千歳に告げ、疲れたのかその日はすぐに寝落ちをして、特に変哲のない3日間を過ごした。13番街であんなに騒いだのに、全く騒ぎにはなっていなかった。ナナも親の都合でキャバクラを辞め、街を出たことになっていた。これも見えない力なのだと、恭は確信した。


しかし、3日経っても体の違和感は消えない。蛇になるような兆候はないが、身体の中を何かうごめいている。そんな感じがする。


恭はため息をつき、スマートフォンを取り出した。コール1回で相手が出る。


「…もしもし」

「お〜!元気だった?」


明るい声だった。元気だった?じゃなくて。なんて能天気なんだこの人は。オレはこんな目にあってるんだぞ。言いたい小言をぐっと押さえ込んで、会う約束を取り付けた。



場所はこの前会ったファミリーレストラン。

恭か着くとポテトを頬張りながらコーラを飲んでいる千歳がいた。今日は黒のマウンテンパーカーだ。あの伊達眼鏡ももうしていない。恭を見つけると大きく手を振りながら「久しぶり〜〜」と呑気に笑っている。3日は久しぶりに入るのか。


「珍しいね?恭君からなんて」

「アンタに聞きたいことがあって」


なーに?といいながら、口いっぱいにポテトを頬張る千歳。りすみたいだ。自由奔放な彼に恭はまたため息をついた。


「…オレはこれからどうすればいいんですか?」


普通の人間じゃなくなった今、オレはどんな人生を歩めばいいのか。また異能力者喰いに襲われる可能性は?どのような力を付ければいいのか?そもそもどうやって力をつけるのか?それを聞くには千歳しかいなかった。


「今のままでいいんじゃない?今のまま暮らしたら」

「は?」


間抜けな声が出た。千歳はポテトを頬張りながら続ける。


「だけど、また襲われたり、もしも力が暴発とかしたら…」


「あー、大丈夫大丈夫!13番街に行かなければ滅多に襲われることはないし、君の場合は、君の体に元々異能力があったわけじゃないから、拒絶反応はないよ。」

どうやら、異能力が2つ以上体に入ると、拒絶反応が起こるらしい。千歳は続けた。


「だって、君にも暮らしがあるじゃないか。こっちの世界にそこまで深入りしなくていいよ。」


恭の表情を見た千歳はフフッと笑い、窓の外を見た。

「…今こっちの世界はすこし不安定なんだ」

どこか嘲るように言う千歳。不安定?恭が聞き返す。


「まぁまぁ、扉がいつ消えちゃうか分からないから、あまり向こうの世界で生活しない方がいいって事だよ。人間の世界にいて、異能力を隠しながら生きている人もいるわけだし。」

そういって、千歳はコーラ飲み干した。


「また、体の変化があったら、教えて。これあげるから、吹いて。」

「何これ…」

不意に、千歳が恭に渡したのは笛だった。黒い小さな笛。

「スマートフォンの方が良いんじゃ…」

「あはは、たしかに。まぁ、持ってて」

半ば強引に手の中に押し込まれた笛。これで呼んだら本当にくるのか?恭はとりあえずもらうことにした。


「…もういきます」

ガタッと席を立つ恭。

「え、もうちょっと話さないの?せっかく会ったんだし〜」

何頼む?今日は俺のおごりだよ〜。とメニューを見せようとする千歳を一瞥する。

恭の綺麗な顔はさっきから一向に笑ってなかったが、カバンを持ちニッコリと笑みを浮かべた。


「だってこれ以上時間の無駄ですよね?あなた、オレに話したくない事ばかりだし。」

「あはっ、君本当に目ざといよね。」



困ったように笑う千歳に対し、ご馳走さまです、と会釈をし、恭はファミリーレストランを後にした。

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