第3話 いずれ鳴るはウエディングの鐘

 2018年の今年が終わる。

 一年を通して努力してきたことが報われる日であり、また新たな一年を迎える大切な日である。

 私は一年の終わりを除夜の鐘突きで終わらせるのが好きだ。

 一年の終わりとは特別な日であるのだから普段の日常とは違うことをして終わりたい。

 なので、私は一人除夜の鐘を突きに来た。

 ……今年は一人で。

 去年はミーナも友ちんも一緒だった。しかし、二人とも来ない。喧嘩別れしたわけじゃない。

 ミーナは海外旅行に出たのだ。グアムで年越しをするので除夜の鐘に参加できるわけない。海外のお土産が楽しみだ。ブランドバックをお願いしたが忘れたら絶対許さん。

 友ちんは……彼氏ができたのだ。あんまりイケメンではないけど、同じ趣味で気の許せる彼氏ができたのを写真で見せてもらった。そして今年は一緒に年越すとか言ってるがお前それ本当はどうなんっすかね……女としてのここ一番越えようとしているんですかね……。まあ、それは友ちんの挑戦であり黙って見過ごすことした。

 なので今年は私一人除夜の鐘を突きに並ぶ。長蛇の列に私一人。羊のようにもこもこした服を着て完全防寒。一人で行くくらいなら家にいた方がいいかのではないか? なんて考えるが、毎年除夜の鐘を突いてきたのに連続記録を断ち切るわけにもいかない。

 さっさと鐘を突いて煩悩を払って、おうちに帰って、お風呂に入って温まってから寝たい。

「今年も色々あったのに、誰とも振り返れないのか……」

「そうですねぇ……」

 後ろから声をかけられ私は飛び上がるほど驚いた。

 男の人はすぐ謝罪した。本人もボーっとしてたのでつい相槌を打ってしまったそうだ。

 背丈は私よりも高く、モデルのようにほっそりとした四肢とまぶかにかぶったニット帽。

 顔付は柔和でありながらさっぱりとしたイメージも与えるイケメンだった。

 私は一歩たじろぐほどのオーラを感じながら、笑って話を誤魔化そうとした。それで終わりになるはずだった。

「貴女は、お一人なんですか?」

「ええ、そうなんです」

 私はイケメンと二人きりの状況に耐えれず、マシンガントークで ミーナのことも友ちんのことも話してしまった。除夜の鐘常連のことも全て、話せることはなんだって吐き散らした。

「……」

 それを、イケメン君は目を丸くして見てる。

 そだよねー、いきなりそんなこと話されても驚くよねー。

 玉切れになるまで私のマシンガントークは続いた。

「という、わけなんです」

 かるい息切れとのどの渇きを感じつつ。次に何を話せばいいかわからなくなって軽く涙目になった。

「ぷ……くふっ、あははははは」

 イケメンはお腹を押さえて笑い始めた。恥ずかしさがこみあげてきて列から逃げ出したくなった。

「ああ。いや、ごめんなさい。まさかここまで話してくれるとは思わなかったのもでね。……今度は僕がお話する番かな」

 するとイケメンは部活の先輩と後輩の話し、除夜の鐘突きに行くこと、毎年鐘突きに来てることを話してくれた。

「実はその、僕は君の事を知ってたんだ。毎年君を探してて、いつかこうして話をしてみたかったんだ……君も僕も、今年はお互い一人きりなんて、なんだが運命みたいだね」

「……ふえぇ」

 私はこんな簡単に運命なんて言葉を使う人に会ったことない。いやむしろ今年会ってしまったのだ。

「もしよかったら、ライン交換しない? 除夜の鐘友ってことで」

「はい、喜んで……」

 こうして私は、嫉妬まみれの除夜の鐘突きから、鐘を突く前に今年の煩悩の全てが吹っ飛んでしまったのであった。


 ――END――

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即興小説修正まとめ 神崎乖離 @3210allreset

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