既視感

青葉 一華

第1話


 運命とは、幾つもの既視感が連鎖したものであり、断ち切ろうともそれを断つことは出来ないが、然し僕らはその真実を知ることも無く一生を終える。


 これは、私がまだ若い頃に、常に思っていた事だ。

 今になって、当時を客観的に見れば、それは只の若者のその一でしかないと思えるのだが、この考えが、この想いだけが、当時の自分の全てだったとさえも思うのだ。


 朝起きて、顔を洗う。たったそれだけの行動にデジャヴュを覚えたのは、私がまだ二十歳になる前の事。

 水を弾いた自分の神妙な顔に、何故か、今のこの状況を何処かで見たと、確かに思ったのだ。

 昨日とは違う今日という日に、自分は昨日と同じ行動をしている。その事に、この私の、この低能な頭が追いつかず、仕方無しと言わんばかりにデジャヴュを感じさせたのか。傍また「ヨチム」として自分も気が付かぬ間に夢で見たのか。

 私の人生はそんな事の連続だった。


 日常的なものに限らず、大会で入賞し、その時上った表彰台の上でも、私は変わらずデジャヴュを感じた。

 かく言う今、一生を終えようとする今でさえ、この光景をどこかで見たと、そう思えて仕方が無い。


 今まで周りに、理解を求めたいと思った事はないと言えば嘘になる。だが、例え理解され、「そう思う」と言われたとしても、薄っぺらい建前にしか聞こえないだろうとも思う。

 結局の所、私は孤独を嫌い、然し孤独を求めているのだ。


 孤独が寂しいと、誰かが言った。然し私にとって、それは否だった。

 確かに苦しさはあったかもしれない。だが、私は孤独を寂しいとは思わなかった。理解されぬ侘しさやもどかしさはあれど、それもいつからか楽しさに変わっていた。

 誰も知らない真実を、自分だけが知っているのだと。認知されぬそれに、私は気がついてしまったと。


 既視感。デジャヴュ。

 私の人生は、決まったものだった。

 全ての出来事が、生まれた時に決められていて、それに沿って生かされているに過ぎない。だが、それも一興だ。

 一度しかないこの世、この時間を、「生かされている」からと自暴自棄になってしまえばそれまでだ。ならば、「次の運命はなんだろう」と。分岐点に立った時に「どちらを選んでも辿り着く場所は同じだ」と。そう、思える。そんな人生があっても良いではないか。


 私は幸せだ。幸せであった。

 神に感謝する今この時も、もう決まっていたのかもしれないな。

 ただ一つ言えるのは、デジャヴュに気づいたあの時から、今初めて、私は既視感を覚えなかった。


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既視感 青葉 一華 @ichikaaoba

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