一難去ってまた一難。社会では来る難は大抵、災厄。

 さて、見事にセントールが住む地区の開拓の第一歩を踏み出す事が出来た友三郎はどうしているか?

 宿に帰るなり、押し込めていた不安と恐怖に襲われ心臓が激しく鼓動し、今にもひきつけを起こして倒れてしまいそうでした。それでも仕事終わりに一杯の信念により、震える手でグラスに日本のウィスキーの中でも長寿商品として有名な角のあの瓶を注ぎ、一気に飲み干します。


「くっっっはあああ!!あああ!!死ぬかと思っった!!!」


 全身から汗とか、汗?とかを噴き出しながら友三郎は力なく椅子に寄りかかり、何とかセントールの住む地区の市場から締め出される事態と、自分がナマモノとなる未来を切り抜けました。

 その所為で、残り僅かで少しずつ大切に飲んでいた角のあの瓶を、無計画に飲み干してしまいましたが、有給申請を出してからの事だったので戻ったら買い足そうと特に気にしません。

 普段なら「やっちまったよ!どうすんだよ!おおおおい!」と落ち込みますが、達成感から本当に気にしていません。


「クソ疲れた…さぁて、次の担当者に引き継ぎの書類作って、んでエルフの地区を一時的に担当してもらっている奴から報告書もらって…ああ、本当にこれで手取り20万にも届かんとか割に合わねえぇ……」


 などと愚痴を零しながら友三郎は、後任が来た時に渡すセントールの地区で絶対にやってはいけない事と、気を付けなければならない事などのマニュアルを作ります。

 後任者を思ってではなく、前任者のようにナマモノになって自分にそのしわ寄せが来るのを防ぐ為です。


「たくっんで誰も下調べしねえんだろうな?今月に入って3人も箱詰めにされてんのに……」


 友三郎は思います。

 寝よう。

 明後日には後任が来て、自分は担当している地区に戻る。

 だからさあ、寝よう。

 友三郎は決意して、シャワーを浴びようと思い立った時です。

 誰かが大急ぎで、階段を駆け上がる音が宿に響きます。


「丹波ざぁ゛ぁ゛ん!!」

「誰だてめぇ!?」

 

 ドアをまるでコメディ映画の様に突き破りながら、高校を出て間もなさそうな、就活中の高校生のような少女が友三郎に抱き着きます。


「どぅわあ!?離れろ!鼻水を付けんなておい、お前は確かはなぶさか?」

「びざじぶりですぅううう!だずげてぇええ!!」

「とりあえず落ち着け、何があった?と言うより本部の事務員が何でここにいんだ?」


 友三郎は色んな物を顔から垂れ流して泣きじゃくる、地球に居た頃に交友のあった本部の事務員で、童顔なだけで実際は友三郎より一歳下のはなぶさ 真知子まちこをベッドに座らせます。


「実は…今月に入って14人の方がなく…箱詰めになられました」

「14人…記録更新だな」

「はい、それで政府から支援金を貰い続ける為に人を送らねばならなくなり、本来は不正会計をした本部の人が行く筈だったんですが、社長に体を売って免除してもらい、私が繰り下げで異界送りに……」

「腐ってんな!本当に腐ってんな!転職、転職しかねーだろ!!」

「無駄ですよ、いまだに昭和から抜け出せない企業ばかりです、小売業界で白いのは恋人と三〇坂フロマージュくらいですよ」

「相変わらず好きなんだな」

「大好物ですね」

「あとセントールの地区の後任はまさか英なのか?」

「ええ、そうですが」


 友三郎は思わず天を仰ぎ見ます。

 神経質にならねばならない地区に、本部の事務員を送る上層部のお花畑でカバディーをする人達を囲んで、楽しそうにフォークダンスを踊るような考えに…。

 つまり友三郎は理解する事を止めました。


「おい」

「へい!」

「お前、今日から肉類一切禁止な」

「ええ!」

「ええ!じゃねえ、お前の担当地区は肉類一切禁止の地区なんだよ!下手に、焼き肉のタレは何がお好きですか?黄金の〇?我〇家は焼〇さん〇牛〇?なんて聞いてみろ、即ナマモノと思え!!」

「ええええ!?」

「さあ!今日からお前は草食動物、オール精進で緑の葉っぱを美味しくいただこうか!!」

「えええ!!」


 こうして友三郎の心労は減るどころか。

 倍増しました。

 この後、別の地区でまたナマモノになった人が現れたそうです。

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Q.異世界で地球産の商品を売るにはどうしたら良いですか?A.菜食主義のエルフに焼き肉のタレを売らなければいい。 以星 大悟(旧・咖喱家) @karixiotoko

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