最終話 無傷の剣聖
かつてこの都市を恐怖に陥れ、ギルドのクエストランクSだった”赫の毒飛竜”の討伐を達成……
王都の騎士団長、”白銀の防壁”
最強の傭兵団の団長、”漆黒の尖牙”
それぞれを無傷で決闘で倒し、ある日忽然と姿を消した無傷の剣聖。
彼を倒せば武芸者としての名は天下中に響き、最強の称号も得られるだろう。
多くの人間が失踪した後も彼を探し、挑み、また負けてきた。
実は何となく場所は割れていたのだった。
彼には意外と生活力がなく、また超大金餅でもあったため、山籠もりしても、ちょくちょくふもとの村へ買い物に出たり、また時には町に行ったりもしていた。
だいたいのお金は離れて暮らす家族に渡していたのだが。
そのため挑もうとした冒険者は、聞き込みさえすればなんとなくどこの山に籠っているのか知ることができた。
俺もその一人だ。
俺はミヤモト。二刀流の剣士だ。ギルドの冒険者ランクはC。
だがCでもかなりイケてる方のCだと思う。新進気鋭でB寄りのC……
いや、ランクの判断が間違えているだけで実際の実力はAランク相当かもしれない。
冒険者になってからクエストをこなすたびに達成し、トントン拍子にランクが上がり、半年でCランクまで上がったのだ。もう実質Bランクといっても過言ではないだろう。過去には1か月でBランクになった冒険者の例もある。(それが剣聖だが)
それにも関わらず、アホ無能ギルドは俺にCランクのクエストしかあっせんしてこない。そこで俺は、剣聖を倒し、実力を天下に認めさせるのだ。
魔物だけでなく、一対一の決闘にも自信がある。
俺は王都騎士団の部隊長と、酒場で酔った勢いで戦って勝ったしな。
というわけで、剣聖のいるといわれる山に来た。
「出てこい剣聖、俺と尋常に勝負しろ!! 」
そういいながら山を闊歩していると小屋を見つけた。見ると1人の老人が薪割りをしている。
「うるさいのぅ、最近は静かだったのに、久々に挑戦者か……」
そう言って手を止める姿は、そこまで強そうに見えない。大柄でもない。
「お前のようなおいぼれを倒して本当に名声が上がるのかわからんが、俺の将来のための礎となれ」
「わかったわかった。では準備するから、そこで待っておれ。山中にちょうどいい広さの広場もあるから、案内する。小屋を壊されてはたまらんしな」
俺は承諾し、剣聖について行って山の中の開けた場所に行きついた。
そして剣聖と対峙。
俺は二刀流。剣聖は一本の小太刀のみ。
俺には二刀流から繰り出す10連撃、流星爆撃水流って必殺技がある。
盾や小手があればまだしも、小太刀一本では捌けまい。
威勢よく切りかかろうとしたその刹那、カウンターで老人が切りかかってくる。
不意を突かれたがこちらは肉体も反応も全盛期、掠って顔に切り傷を負ったが、まだまだ戦える。
距離をとって構えなおした時、老人が言う。
「勝負あったな」
「なんだと? 」
「この小太刀には山でとれた毒草や毒キノコ、果ては毒虫をふんだんにつかった神経毒が塗ってある。あと1時間もすればお前は毒が回って動けなくなり、呼吸もままならず、2時間ほどで死ぬ」
「何を馬鹿な」
「昔は”一の太刀”と呼ばれていた。一刀ですべてを切り伏せる剣技。それで俺は神の加護がなくなった後も、無傷で勝ち続けていたが、寄る年波には勝てず……。一刀で切り伏せるのがむずかしくなってな。仕方ないので毒を使うことにしているのだ。悪く思うな」
どうやら本当なのかもしれない。
「これから俺はお前の毒が回るまで慣れ親しんだ山を逃げるから。追ってきたければ追ってくるといい。一度も捕まったことはないがな。俺としては、速やかにふもとの村に戻って、医者に診てもらうのがオススメだぞ」
「クッソ、卑怯な真似を。正々堂々と戦え! 」
「そんなことして俺になんのメリットがある。ではな~」
言い終わるか否か、剣聖は走り去ってしまう。追おうした矢先、足元がふらつくのを感じた……
10分ほど老人を追ったが、慣れない山にあっという間に見失ってしまった。
そして眩暈と吐き気にも襲われる。
薄れていく意識の中、息も絶え絶えで俺は山を下った……。
気が付くと村の診療所にいた。
村の医者の話では、山に剣聖を倒しに行ったものは大抵、俺のようになるらしい。何回か行ったものもいたが、太刀のほかにも山には罠が幾重にも仕掛けられており、まだ一太刀も浴びせたものはいないとか……きっとあの調子で何度もやられているのだろう。こちらが不意打ちをしようものなら、勝利の名声は得られない。むしろ、老人を不意打ちや卑怯な手で倒したらかえって評判に傷がつく。それを知ってのことだろう。
もうあのジジイとかかわるのはやめておこう……。
……こうして、強さとはなにかを学ぶ冒険者がいるため、俗世を離れつつもこっそりギルドから報酬をもらっているとかいないとか。
性格悪くてモテないやつが転生すると、やっぱり面白さに欠けるねぇ。
次の転生者はどうかな。楽しみだね。モリタより
もし俺が異世界転生したら ~ハーレムは要らないです~ きたまくら @cNM-nyusan
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