Bread was baked 最終話

この街に来て初めて仲良くさせて貰い、間違いなく自分の人生に影響を与えてくれた…… 秋本 歩(アキ)さん。

去年の終わりから既にアキさんは、街を出ていた。

自分がこの街に戻って来たあの日。

雪が雨に変わった日の朝早くにアキさんは一度戻り、ユウさんに最後会い そして……


やっぱりあの雨は……


人が居なくなった建物は、すぐに傷みだす。小洒落たアキさんの店も、あっという間に只の空き家になっていた。

自分は勿論、カオリさんも暫くは…… 辛く寂しく、悲しい日々だった。

今になって考えてみると、秋の終わり頃からアキさんの態度が違ってたかもしれない。急に冷たく厳しい態度で、カオリさんに向かい合っていたし。

妙に自分にカオリさんの事、見続けて欲しいだとか。

最後の年末に会った時も、帰り際『カオリさんの事、頼むよ! 』とか。


勝手です! アキさんは。


あの時が、最後だったと思うと……

もっと、色々話したかった。

カオリさんを悲しませて…… イブの夜は、何だったんですか?

最後の思い出? 可哀想です、カオリさんが……


「ねぇ? マコっぺ。もしかして私が可哀想とか思ってないでしょうね! 」


えっ。声に出ちゃった? いや、心を読まれた?


「単純だから、へタレマコが何考えてるのか、すぐわかるの! 」


「ショックは無いですか? 意外と何か…… 大丈夫そうみたいだけど。……実はイブの夜、見ちゃったんですけど」


「最低〜〜! やっぱり覗き魔だったか。キャンプの時も覗いてたしね! 」


「てっきり、アキさんと上手くいくものだと…… 」


「そんな簡単に行く訳ないでしょ!

大体、アキさんがいきなりハグするなんて普通じゃないでしょ? エロマコとは違うのだよ! 」


「じゃ予感は、あったんすか? 」


「ん〜〜 暫く時間が掛かるのは、覚悟したけど…… まさかね〜〜 逃げ出すとは」


「逃げ出した訳じゃないでしょ? アキさんの優しさじゃないすか? 」


「逃げたの! パン屋は、私から逃げたの!あーー 勿論、根性無しのアンタからも逃げたの! 」


「残念だなぁ。会えないのも寂しいけど、アキさんのパンが食べられない事が」


「ねぇ、最後のパン。名前覚えてる? 」


「えー、えーっと。忘れました。確か『結び目』と言う意味だった様な…… 」


「はぁ〜〜 使えないね〜〜 相変わらず」


「調べます。結び目のパン。これだ!

えーと、[クノーテン]」


「結び目かぁ〜〜 友情を結ぶとか? キモいなぁ〜〜 あのパン屋が考えそうな事だわ」


「カオリさん! 言い過ぎですよ! 良いじゃないすか。好きですよ、自分はそういうの。愛を結ぶ意味かもしれませんよ? 」


「……もぅ。素直じゃないんだよね! パン屋は、そうならそうと言えばね〜〜

あーー! もうっ! 一回くらい…… 夜を共にしたかったなぁ〜〜

そしたら…… もぅ虜よっ! 」


「ぶっ! あの言っちゃいますけど、そういうとこですよ! カオリさんのダメな所」


「うるさい! マコ、鼻血でてるよ! 」


「マジっ! いや、出てないっすよ」


最近は、こんな感じでユウさんの店で過ごす。やっぱり寂しいですけど。


2月も半ばになり、寒さがより一層厳しい時期。仕事が終わり家にいると。

いきなりカオリさんが来た。

「はい! 義理! 義理チョコ。あくまでも義理です。勘違いしないでね。アキさんに渡せない辛さをマコで誤魔化す」


「何ですか? 誤魔化すって。ありがとうです。有り難く頂きます」

「どうせ、義理チョコすら貰ってないんでしょ? 」

「いやいや、意外と貰えました。仕事先とかユウさんの親戚の飲み屋の娘とか」


「ちぇっ、なんだよ〜ー お金、無駄遣いした。返して〜〜 自分で食べるから」


「イヤです。自分にとって大事なチョコですから…… 」


「……あ、はいはいどうぞ。

じゃあね〜〜 」


義理なのは重々承知です。

でも嬉しいんです。ありがとうです。



寒く厳しい季節が終わった。


自分もこの街に来て一年が過ぎた。

まだ一年しか居なかったのかと思う程、色んな事があり濃密な一年だった。


春になり仕事も忙しく。

ただそんな中、ユウさんから連絡が。

(今晩、店に来い! 用事があっても来い)

珍しく強引なメール。


仕事終わりユウさんの店[ピッグペン]へ。

[本日、貸切!]

えっ、何だろう。

中へ入ると、

「まぁ座れ。カオリが来てからな! 」


怪しげなユウさん。


「何〜〜? もう忙しんだけど」


そう言いながらカオリさんが来た。


「えっへん! えーー、いいかな? 」

ユウさんが、何故か気合いを入れ。


「ジジイなんなのよ! 離婚したの? ま、まさか子供出来たとか! 」


「うるさい! 黙って聞け!

手紙が…… 来ました。アキから」


自分もカオリさんも思わず息を飲んだ。


「それぞれに宛てて書いてるから、自分で読んで! 俺は、もう全部読んだ」


カオリさんと目が合った。お先にどうぞと手で合図し、カオリさんに先に読んで貰った。

……


カオリさんは、笑顔で一生懸命読んでいたが…… ずっと涙を流していた。手で涙を拭いながら…… でも笑顔で読んでいた。


そっと手紙を自分に渡した。


何故かドキドキしながら、手紙を読んだ。


“ マコちゃん こと 田辺 誠 様へ

マコちゃんが来て、俺も少し変われた。真っ直ぐで真面目だからマコちゃんは。でも、まだ俺は弱い人間だからもう少し時間が掛かると思う。許してね、逃げちゃって。そのマコちゃんの真っ直ぐで真面目な所を大事にして、楽しい人生を歩んで下さい。真っ直ぐな所は、カオリちゃんと合いそうだと思うけどなー。

もしかして、もうそうなったかな?

遠慮しないで、もう一度ぶつかってみたら?

意外と、推しに弱いかもよ? カオリちゃん。ちなみに以前プレゼントしたバッグ。花の模様を入れたの覚えてる? あの花は “ツキミソウ” をイメージしたもの。

花言葉は、『無言の愛情』。だからカオリちゃんにも同じ花を…… ただ、もう一つ『移り気』の意味もあるので…… 頑張れ〜!


ありがとう。いつかまたマコちゃんとカオリちゃんの為に、パンを焼く日が来る事を信じて…… 秋本 歩 ”


手紙には、一枚の写真が入ってた。


白波が打ち寄せる砂浜。その砂浜と平行に真っ直ぐな道路が一本。

他に何も無い所に一軒、道路沿いに白い建物があった。何処かで見た建物。


[After-eve ]そのまま。


アキさんは、また美味しいパンと素敵な革製品を作ってるんだと……


写真を見ていると、

「マコト、何飲んでるの? 」

「マッカランの12年。カオリは、何飲む? 」

「じゃ私も、同じで…… 」


アキさん。カオリさんとお付き合いする事になりました。

自分が一番ビックリしてますけど。

カオリさん曰く

バレンタインの義理チョコをあげてから、何故か意識し出したそうです。

本人は、『気の迷い』と言っています。

今でも……


アキさんの店

[After-everything]探して絶対に行きますからね。最愛の女性と一緒に。

逃げないで下さいよ!





「 After-eve 」

本宮 秋


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After-eve 本宮 秋 @aki213

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