弱くてちっぽけな僕ら

南京白夜

届かない

さっきから頭痛が止まらない。吐き気と腹痛もあるかも。どうせいつもの風邪だ。風邪薬は飲んだ。後はベッドで寝るだけだ……朝まではあと何時間あるかな……あれ、今……午前4時?


頭が痛いよ。眠れないよ。っぷ。吐きそう……トイレ……トイレ!!


なぜか真正面に地面が見える。僕はトイレへ駈け込もうと階段を駆け下りていたはず。地面は僕に迫ってくる。止まらない……止まらない……トイレ!吐きそう!踏ん張れ!手すりをつかめ!階段から転げ落ちるぞ!死ぬ!死んでしまう!


ずこーーーーっ




・・・とりあえず命は助かった。




「あ、すいません。階段で転んじゃって、全治3か月です。はい。え、辞表だせ?なんで?……え、あ、はい……はい……すいません……」



「なんでそれで辞表出しちゃうかなぁ?バカじゃないの?バカっ!バカ!」


「僕は一生懸命仕事をして、会社のために尽くしてた。それがサラリーマンの仕事、使命、宿命、運命!」


「それで何を手に入れたの?何を手に入れるために頑張ってたの?」


「知らないよ!」



会話の相手は僕の妄想。脳内彼女というやつである。僕の彼女はツンデレ気味に僕のことをいたわってくれる。自慢の彼女である。それだけで生きていける。


社会で生きていくということはどれだけ人に奉仕するかを試されることだと思っている。だから会社に搾り取られてポイされても、それが人として生きていくことだと納得できた。でも彼女はそうじゃなかった。


「勝手に自己満足で死のうっての?ていうかもう死んでるも同然じゃない。人に言われるがままで、何も自分から動けない。戦えない。立って!ふざけるな!」


「僕は立派に戦った。そして死ぬだけだ。これなら、誰からも文句言われないだろ」


「何それ!信じられない!文句言われたら死ぬ呪いでもかかってるんじゃないの?」


「笑ってよ」


「ふ・ざ・け・る・な」




「本当の私はそんな貴方を許したかもしれない。本当の夢があれば、どんな困難にも打ち勝つことができて、本当の気持ちで本当の幸せを手にしていたかもしれない。」


「でも本当は、"本当"なんて都合の良いものがどこにもなかった」


「本当だね」


「くすくす」



「私がやさしいのは臆病なせいだ。誰かに嫌われるのが怖かった」


「奇遇だね。僕もだよ」


「私がいら立っているのは、貴方のことが本当は大嫌いだからだ」


「僕はそんなこと思いもしなかったよ。嫌われないことに必死だったからね」


「私が何か言うたびに、あなたが何かを返し、そのたびに私はイライラを募らせる」


「君がイラつくのを喜んでいられるこの瞬間が癒しであり、喜びであり、自由」




「情けない男」


「タフだったら、君は笑顔で愛してくれたかい?」


「自分を笑顔で愛してもらうことを妄想できないなんて」


「僕はタフじゃなかったからね」


「おやすみ、タフでない私」


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弱くてちっぽけな僕ら 南京白夜 @nankinbyakuya

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