第 9 話  三匹の猿

水を貯える森には、生い茂った草、木の実や果物がどこにでも有った

草を食べる動物も、肉を食べる動物も、食べ物には困ることはなかった

猿にとってもそれは同じだった


森には大きなサルと、中ぐらいの猿、小さなサルがいた

肉食の猫や犬、大きな虎や狼、小さな蛇や大きな鼠を飲み込む大蛇もいた

小さな鳥やサルの子供を食べる大きな鳥もいた

生物を土に返す細菌や、血を吸う小さな虫たちも住んでいた


森の外は草原や砂漠、山、その向こうには陽が上る海が広がっていた

森と砂漠の堺の平原には、果物や草を食べる大きな象や麒麟が森の恩恵に与かっていた

増えすぎた動物たちは、草原との堺や山の斜面、草原や海辺にあふれ始めていた

それを狙う肉食獣が出始め、海に帰る大型動物さえいた


大きなサルは、ハーレムを作り地面にいた、大きな犬、大きな猫、大きな蛇にも

負けない体があった

大きなサルは森の動物に負けた事もなかったし、怖がる事もなかった


中ぐらいの猿は地面と木の上,両方で暮らしていた

地面の草の実や木の実、昆虫など、いろんな物を食べていた


小さなサルは高い木の木の実、果物を食べ、木の上から周りを見渡し

大きなサルや大きな動物から身を守っていた


あらゆる動物、植物の楽園だった



草原に出た虎や犬は少し縞模様が減り、茶色になり、群れる様になっていた

草原から帰った 虎が水辺にやってきた

小さなサルと中ぐらいの猿は森の木に逃げ登り、大きなサルを見ていた


草原の虎は大きなサルに飛びかかった

大きなサルと虎の戦いが始まった

大きなサルは簡単に虎を捕まえてしまった

しかし、虎は群れていた、次から次に背中から横から、大きなサルに飛びかかる

虎に襲われた事のない大きなサルは虎の餌になった

大きなサルは森深く、高い山の中腹まで逃げ始めていた


地球の気候変動が長い期間をかけ、定期的にやってくる


気温は下がり、森は小さくなっていった

草原は砂漠になり始めていた

大きなサルは山岳に留まり

小さなサルは木の上に追いやられ、残り少ない動物や果物をとっていた

中ぐらいの猿の一部は、森と草原の堺に追いやられた

木の少ない草原では遠くを見渡せない、犬や猫から身を守るため

立ち上がった


草原の小さな動物を狩り、森に入り木の実と果物を食べた


「父ちゃん、木が無いとオオカミがやってくるよ、森に帰ろうよ」

「草原の端にも木はある、ククノチ様はいてくれる」


草原に出た猿は草原だけでは暮らせない、森の堺に帰らなくてはならなかった


ある時、森が何処かわからない程離れた草原に、出てしまった猿の群れがいた

草原を見渡すと平原には、地面の割れ目がとめどなく続いていた


太陽が沈み始めて

空には星と月が光始めていた


「母ちゃん、今日は夜でも明るいね」

「夜の猫や犬も見えるよう、月が照らしてくれる、ツクヨミ様がみてくれているんだよ」


「父ちゃん、風が寒いよ」

草むらに周りから集めた草を敷き詰め、木の上と同じベットを

みんなで作った

「こっちに来て中にお入り」

草むらのベットの中で父ちゃんの周りに群れが集まった

外にいた子供は寒さに耐えられず群れの中心に潜り込んでいた

子供を抱いた母猿は群れの中心へ、大人たちに囲まれて、夜をすごした


夜が明け、朝が来た


猿の群れは、皆太陽に体を向け、立ち上っていた、

太陽の温かい日差しで生き返っていく


「母ちゃん、太陽は温かいね」

「あれが、アマテラスだよ、森も木もみんな、太陽で生きているんだよ」

「アマテラス様?」


森はどんどん小さくなって

大きなサルの群れはどんどん絶えてしまっていた

中ぐらいの猿は平原に立った


「母ちゃん、近くに木が無いよ

オオカミがくるよ、森で休もうよ」

「地平線の直ぐ上、あそこに動かない星があるだろ、よく覚えておくんだ」

「よく見ると、あの星は二つ光ってるのが判るだろ、父ちゃんと母ちゃんのホクト様だ」

「ホクト様の方には森があり、右側には大きな谷が有るから、アマテラス様 

ツクヨミ様がいない時は動いてはいけないよ」


動かない星の反対側には

大きな山が火と雲を吐き出していた



地球はどんどん寒くなっていく


葉っぱの代わりに、獣の皮を纏うようになる

木の枝に枝を集めてベットをつくる様に、草原にベットを作る様になる

瓦礫の洞窟に雨を避けて休む様になる


大きな肉食獣や大きなサルを避け、森から離れた中ぐらいの猿が

生き残っていった


地球は又熱くなる


砂漠が広がり、森がどんどん減っていく

海の近くや、大きな河川の近くはまだ森があり

飲み水もあって

多くの動物たちもやってくる

川には魚が、海には貝や蟹、海老も沢山いた

水の近くは気温の変動も耐えられる範囲だったが


少しずつ気温は上がっていく


川や谷に沿って、猿は谷の方にどんどん下がっていった

動かないホクト様のは高く見やすくなっていった


「父ちゃん、川って 蛇の様だね」

「いくつもの谷がどんどん集まって、川になり、その先に大きな湖ができてるんだ」

「水をナーガ様が集めてくれているんだ」


太陽が上がる方向には、大河が流れ

果物や木の実が減って、大きな象を狩る様になっていた

石を投げ、穴を掘り家を建て、狩りや調理の為に石を加工するようになり

土で器を作り始め

ホクト様が高く上がる所まで逃げていた


草原や高原で山火事が起きていた


「父ちゃん なんか臭い 煙が上がってる」

「山火事だカグツチ様は怖いぞ、なにもかも飲み込んでしまう」

「カグツチ様の元へ逃げるぞ」

「カグツチ様からの上る煙の元へ、山をまわり込めば、大丈夫だ」


小さな山の麓からカグツチ様は山を登っていた


「父ちゃん、カグツチ様の通り道でいい匂いがするよ」


黒焦げになった猪が、未だ朱い炭の上に横たわっていた


「父ちゃん、いい匂い、食べれるよきっと」

「美味しいね」

「なんて美味しいんだ カグツチ様の朱い炭と猪を持ち帰ろう」

持ち帰った猪は数日経っても、美味しかった


谷合いの洞窟や岩陰に寝床を作り

朱い炭と枯れ枝を集め

洞窟の入り口近くにカグツチ様を絶やさない様に

見張りを付けた


地球は又、寒くなっていく


中くらいの猿は群れのボスの他に、自然の中に神をいくつも持つようになっていた

ククノチ様は雨、風、寒さをしのぐ家を与えてくれた。

体毛は気温の上昇に沿って減っていた

寒くなっても、家に住む事やカグツチ様の熱や

動物の毛皮を纏うことで、どんどんなくなってしまっていた


ククノチ、アマテラス、ツクヨミ、カグツチ、ホクト、ナーガ

数えきれない数の神を持った、中ぐらいの猿は神を頼りに

気温の変化、食べ物の変化から家族を守り

旅を乗り切り、アマテラスが昇る小さな島に住み着くのだった


そこは木の実が沢山有り、川の水はそのまま飲め、海に川に、

魚、貝、海草。

森にはシカ、イノシシ、大きな象もいた

沼の近くには草の実が生い茂っていた


「父ちゃん、綺麗な黒い石がいっぱいあるね」

「これは良く切れる、いい石を見つけたぞ」

「みんなに分けてあげよう」

石と食べ物を交換するようになる

「母ちゃん、この石すごいね」

「みしゃく様だよ、私たちを楽にしてくれるだよ」


その後も幾多、数多の神を持つようになる

一万年以上経った今でも

中ぐらいの猿は余り変わらない小さな島に

家を構えているのである。

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昔話 じ~じ @mune_gg

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