最有力候補
リエミ
最有力候補
「今回、全世界中で、お米に合うものは何か、という議論が起きました。最も自分が合うと立候補される皆さんは、前へ進み出てください」
裁判官のような、低い声が言いました。
するとすぐあとから「それはわたしだ」とか「いや、おれだ」という勢いのある声が飛び交いました。
「まぁ、静粛に」
と裁判官は落ち着いて言います。
「まず、一人ずつ、自信がある者から前へどうぞ」
「ではわたくしが」
真っ赤な顔のうめぼしでした。
「皆さん、異議はないでしょう。わたくしうめぼしですよ。うめぼしといったらお米。これなくしては、おにぎりという歴史もくつがえさせられるでしょう」
「ふむ、たしかに……」
みんな、異論はありませんでした。
しかし、しばらく唸ったあとで、静かに、前へ進み出た者があります。
腹黒いのりです。
「ぼく、のり。おにぎりのまわりを補強し、崩れないよう、固めてあげてるのはだれだ。ぼく、のりだ。中でぬくぬくしているうめなんかよりも、力持ちだし、塩分控えめだし」
「ちょっとまった!」
小さな連中が手を上げました。
「ふりかけだよ! やっぱり、何といってもふりかけだよ! お米がなけりゃ、おれたち、どこへふりかけろっていうのさ!」
「いや、コンブだ」
「ばか言え」
「サケに決まってる。サケフレークにもなったんだぞ」
「うるさい」
「くわれちまえ」
「ねぇ、やっぱりお米により接近できる子が最も似合う者じゃなくて?」
と言ったのは水婦人です。
「私、水だけど、お米を炊くときたっぷりいるわ。そのおかげで、お米もふっくら仕上がるわけよ」
「そんなこと言ったらおかずというワクを超える」
「あら、おかずを決めてるんじゃないわ。よりお米に寄り添って生きる者よ」
「じゃあシャモジだ」
平べったい顔が立ち上がりました。堂々としています。
「ほくほく仕上がりたてに、真っ先に触れるからな。はっはっはっ」
みんな、意表をつかれて、口をつぐみました。
「さて……」
裁判官が立ち上がり、みんなに姿を現します。
「結論が出たようだな」
その姿はハシでした。
ハシは、誇らしげにするシャモジを見て、こう言いました。
「それでは今から、お前はワシと競いおうてもらうぞ。どちらがより、お米にとって必要か、米自身に問いかけてみよ!」
バチバチ!
ハシは自分を鳴り合わせました。
奥の薄暗闇から、その音を聞いて、つやつやお米たちがやってきました。
一同、目を向けます。
お米たちは互いに寄り添い合って、モジモジとしています。
「ぼくたち……」
お米たちは小さな声で言いました。
「ぼくたち……納まるところが一番落ち着きます……」
その瞬間、お米たちをのせていたお茶碗の顔が、一同の目に輝いたのです。
「なんとあのお茶碗が!」
「では、あのお茶碗が?」
「あの、お米をのせることしか役目を持たないお茶碗が、一番お米に合うということか」
ハシは感心して、お茶碗の顔をまじまじと見つめました。
お茶碗はいつもと変わらず、平然としてお米たちをのせているのでした。
そして「何を当然のことを言っている」とでも言わんばかりに、ふんっと笑って、お米たちをのせて帰って行ったのです。
◆ E N D
最有力候補 リエミ @riemi
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