第32話 ゼリーの理由
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん!」
俺が玄関の扉を開けると、すぐに美夢がリビングから顔を出し、こちらに手を振ってきた。なんだか上機嫌のようだ。
「どこ行ってたの?」
手洗いうがいなどを済ませ、リビングに戻ると、ソファに座った美夢が待っていたとばかりにこちらに顔を向ける。そんな美夢の質問に、俺は「少し病院に用があって」と返答したが、美夢が今興味を持っているのは他の事だろう。
「ねぇーねぇーお兄ちゃん、私冷蔵庫見ちゃったんだけどー。あれ、私が前に言ってたやつだよね!!」
跳ねるような美夢の言葉に、俺は若干押され気味になりながらも答える。
「あ、あぁ。この前教えてもらったからな」
寧々のお見舞い品に困った俺は、少し前に美夢に質問し、店を教えてもらっていたのだ。美夢が言うには、あのお店は、『今の流行の最先端』であるらしい。もちろん流行などに詳しくない俺は、画像を見てもあまりピンとこなかったが、学校へ行く前、七時前にその店へ向かった時、行列を見て納得せざるを得なかった。でも何とか八個入りのセットを二つ買うことが出来、片方を寧々の元へ、もう片方を冷蔵庫の中に入れたのである。
「あれって、私も食べていいの?」
可愛らしく上目遣いで俺にねだる美夢であったが、俺は元からそのつもりであった為、あまり間を開けずに「もちろん」と返す。すると美夢は「やった!」と胸の前でガッツポーズをしながらソファの上で小さく跳ねる。その姿を見ながら、俺は小さく笑う。
「お兄ちゃん、最近よく笑うようになったよね」
美夢はなぜか複雑な表情をしながらも、俺にそんなことを言う。そんなことは無いと思うが……。
「まっ、いいや!それよりお兄ちゃん!早く食べよっ!」
そう言ってソファから跳び降り、冷蔵庫に向かって行く美夢の事を俺はどこか不審に思った。だが、ゼリーの箱を持って笑顔で帰ってくる美夢を見て、気のせいだと感じだと、美夢と共にソファへ座った。
桜散る校舎の中庭で 波麒 聖(なみき しょう) @namiki_sho
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