魔法少女対シャークタイフーン
ターレットファイター
魔法少女対シャークタイフーン 群馬新東京SOS
1.メキシコから来た少女
〈群馬新東京国際空港へようこそ。飛行機の欠航のお知らせとなります。パンアメリカン航空北回り西ベルリン行き8492便は機材繰りのため欠航、また、その他のパンアメリカン航空の便も本日15時以降すべて欠航となります。搭乗券をお持ちの方は8番窓口までお越しください。続いて、英国海外航空のご案内となります。英国海外航空運行便は運行停止時刻が繰り上げられまして13時40分発南回りロンドン行1234便をもって以降全便欠航となります。搭乗券をお持ちの方は12番窓口までお越しください。続いて、日本エアシステム運航便についてのご案内となります――〉
六次に及ぶ東京湾サメタイフーンによる遷都から十年。ようやくのこと群馬は新たなる日本の首都としての姿を整え始めていた。郊外の田園埋立地には群馬新東京国際空港が建設され、新たな高崎(とうきょう)の空の玄関口となっていた。当然、無数の国際便・国内便が運航し、出入国業務の対象となる乗客も数万人にのぼる。
出入国カウンターに座る入管職員にとって、眼の前の少女はその中の一人だった。薄緑色を貴重としたワンピースを来た少女の国籍は日本。パスポートに押された最後の出国スタンプはメキシコ=アメリカ管理州のもので、航空券はメキシコ=アメリカ管理州の州都からの乗継便。記載された名前は薄月しぐれ、年齢は27歳。けれども、職員の目にはその年齢に対し、薄月の外見はそれより二回りは幼く映った。どう見ても、15にもなっていないように見える。しかし、それは彼にとって入管業務で特別の取扱をする理由にはならない。年齢の割に幼い――若々しいと評される外見の人間は、珍しくあっても奇異ではない。手荷物はバイオリンケース1つのみ。メキシコ滞在歴は10年、日本へは10年ぶりの帰国となる。パスポートに押された出入国印からはそこまで読み取れる。怪しげなところはなにもない。ならば、質問のやり取りは形式的なものになる。
「入国の目的は? ご帰国ですか?」
入管職員の形式的な質問に、薄月は笑みを浮かべた。
「いいえ、戦うために」
薄月の答えに、職員は目を瞬いたあと、彼女なりのジョークだろうと判断して楽しげな表情を浮かべる。夕方には群馬県(とうきょうと)を直撃するという予報が出ているシャーク・タイフーンと、数十年前のハリウッド映画の一節にかけた返答とともに職員は薄月を送り出す。
「――イエーガーに乗っている時は、ハリケーンと戦う事も出来るし、勝つ事も出来る。サメをやっつけちまってくださいよ」
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