第2話


───人とも、獣とも取れない奇妙な形をした逆関節の脚をした二足歩行の機械は背中部の推進機関からモノクロで覆われた街中のハイウェイではいささか目立つオレンジ色の光を放ちながらまるでスケートの様に疾走する。

朽ちた廃墟が立ち並ぶ光景には似つかない真新しい白い装甲をした機械は足元にある廃車や廃材をまるで意に介さないように蹴散らしていく。

しばらくそうしていたが不意に機械は推進機関による機動を停止させその場に立ち止まり、何かに反応した機械は辺りを見渡す様な様子を見せるが何も無い。

機械が再び推進機関を稼働させようとしたその瞬間、周りの廃墟が同時に破砕音と共に倒壊し始めそこからまるで例えるのであれば出来損ないな虫のような機械が飛び出してくる。

四つの脚を持ち、胴体は箱のようであり細かな四角形の追加装甲がガチャガチャと音を立てる。

モスグリーンの装甲の正面部からは赤々としたまるで蜘蛛の様な多眼が覗き、機械なのだから発声を行う器官などありはしないのだが機体の節々に見える錆びが由来であろう大きく、そして断続的に響く軋む音がまるで鳴き声のようである。

白い機械を取り囲む様に虫型の機械四機は並びそのどれしもが酷く軋む音を響かせている。

その様子を白い機械──"トゥモローメイカー"のカメラアイ越しに覗く女性が一人。

リーネット・本谷・フロールは息を乱しながら汗でずり落ちそうになっているいつも付けている物よりも一回り以上大きい機械部品が取り付けられた眼鏡を整える。

「くっ…囲まれたか……!」

何処か芝居掛かった様な声音で悪態をつくリーネットは正面の敵を睨みつける。

「でも───この程度で私を倒せるなんて思わない事ね!」

声と同時にトゥモローメイカーに変化が現れる。顔の無い胴体部分から装甲が割れる様に開閉しヘッドパーツが展開され、逆関節の脚は中間部をスライドする様に可動させまるで人の足の様な構造になる。

ヒロイックな人型のシルエットとなったトゥモローメイカーはまるで90年代のロボットアニメの様に決めポーズを取りながら両手に持つパワードスーツ用のサブマシンガンを構える。

「さぁ!ここからがほんば──あれぇー……」

リーネットは急にテンションを下げながら機械仕掛けの大きな眼鏡を外す。

景色は一瞬にして狭く薄暗かったコクピットからリーネットが普段生活している部屋に変わる。

そのレンズには黒バックに"NO SIGNAL"と大きく書かれておりうんともすんとも言わない。

「またこれかぁ……なんなのよまったく」

まるで現実かと錯覚する様な程の精巧な映像を映し出し、思っただけで動くこの不思議な眼鏡は数時間前にリーネットが就寝の為に部屋に戻った時に無造作にベッドの上で転がっていた。

誰が、何の為に置いたのかは分からないままであったがお酒も入っていた為気にしないことにしてその眼鏡で遊ぶ事にしていた。

もう何度か……6回ほど起動しているがその度にトゥモローメイカーはスタート地点の倉庫で起動しある程度動かすと先程の黒い画面になって終わってしまう。

せっかく臨場感があるのにこれではただのクソゲーではないか、そう思ったリーネットは面倒臭くなったのか眼鏡を外し早々に寝てしまった。



───翌日の朝礼にて倉庫に保管されていた兵器開発課のパワードスーツ6機が暴走した自立兵器に制圧された危険地帯にて破損した状態で見つかる怪事件が発生したという報告が上がった。


「……………えっ」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リーネットレポート 天田蓮 @darenez

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る