第五回こむら川朗読小説大賞参加作「今日はとっても完璧な日」について
以下、創作備忘録的なあとがきです。
1 はじめ
お題が男性一人称ということで、久しぶりに退屈な午後みたいに滅茶苦茶な小説を書いてみようと思った。というかそれだけしか考えずに書き始めたので、自分でもどうなるか予想がつかなかった。
そんな感じでデモ行進あたりまで書いたところで、「回らない寿司が食べたい→金がない→強盗をしよう→回らない寿司を食べて満足する→明日あたりに世界が終わる」という展開を思いつき、その前にワンシーン挿もうと児童公園のカバディを書き始める。また、「俺」が強盗をすることにつき、バランスを取るため(?)に、巨大隕石を登場させる。明日、世界が終わるという伏線にさせることを考えていた。
そこから、強盗ではなく、強盗狩りをして大金ゲットでウハウハにしようと、ちょっと捻る。その際に強盗は殺す予定だった。
2 転換
トカレフを登場させる手前まで書いていた時に、元首相銃殺事件が発生する。
なんとなくここらへんまで思いついたものの、いまいちパンチが足りないというか単調だなという懸念は覚えていた上、暴力を用いて己の望む解決をすることは少なくとも現実では受け入れがたいものであるし、創作においてもそこに爽快感はあるのか、あるにしても自分は同じようなことを何度かやっている気がするので、違う道を取りたいと思い、暴力で物事を解決するというストーリーラインから脱却を考える。
結果、「俺」は引金をひかない選択をさせる。しかし、ムルソーですら引金をひいたのに「俺」が独力でひかない選択をできるわけがない。そこで、その選択を後押しする存在として、越谷を出す。ここで出す前から無限肝臓培養法のくだりで越谷を書いていたが、「俺」に金がないくだりのフレーバーテキスト程度に考えており再登場は想定していなかった。結果的にストーリーを転換するキーパーソンになる。
3 結末
ひかない選択をした後、どうするかが問題だった。「俺」が思いつくことが可能でなおかつ非暴力的な行動が必要で、さらにはこれまでストーリーとからむものがよかった。ワンシーン挿んでおいたカバディが活き、カバディをみんなでさせるという選択肢が発生する。
ちなみに作中において最も強引に展開させたと作者として感じるのが、強盗二人とお金を返して謝ったらそれで解決のシーン。特に思いつかなかったのと、字数制限があったので、思い切りはしょっているが、今考えるとワンシーンちゃんと作ってみても面白かったかもしれない。
みんなでカバディをやっているあたりで、作者としてもこの小説が何をテーマにし、「俺」がどのように揺れてきたかを理解できるようになる。
そのため、前に出した寿司を引っ張ってストーリーを展開させつつ、最後は「俺」にトカレフを捨てさせる。また、「俺」がカバディを選んだとき、ダダダはもう児童公園にいない。あとおまけで地味に巨大隕石を引用する。
タイトルは、当初の滅茶苦茶な小説というコンセプトで最初に仮決めしていた「今日はとっても完璧な日」から変更しようと色々悩むが、滅茶苦茶であることには相違ないためズレはなく、これ以上に良案が思い浮かばなかったので、そのまま決定する。作中において「完璧」という語句は、作中において意味が変節するので、タイトルに入れることはありだと思う。Web小説としてはキャッチーなタイトルではないのでpv数は少なくなってしまうだろうとは想定できたが、そこは諦める。
サブタイトルは強盗要素をピックアップし、タイトルとつながるように「あるいは強盗日和」にする。
あらすじは書けるような内容ではないので、登場人物一覧で読者(候補)の気をひくことを試みる。なお、一覧は西尾維新の戯言シリーズを意識。
キャッチコピーには、銀行強盗狩りがいいかなとWordを選び、シュールさとして回転寿司をそえる。
誤字脱字チェックをして、完成。
4 オマージュ
本作はF翁の「罪と罰」とカミュの「異邦人」をオマージュしている。
金がなく回らない寿司に行けない「俺」が銀行強盗狩りを行うことは、「学費滞納のため大学から除籍された貧乏青年ラスコーリニコフは、それでも自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」との意識を持っていた。その立場なら「新たな世の中の成長」のためなら一般人の道徳に反してもいいとの考えから、悪名高い高利貸しの老婆アリョーナを殺害し、その金を社会のために役立てる計画を立てる」(Wikipediaから引用)というあらすじを意識している。しかしながら、「俺」は凡人である。優秀さという意味では、秦野の方が近いのかもしれない。
また、ラストで「俺」がトカレフを投げ捨てるシーンは、恵んで貰った銀貨を貧困に窮しているにもかかわらず川に投げ捨ててしまうシーンがあるので、それを意識している。
「異邦人」については、ムルソーがアラブ人を射殺してしまう決定的な場面を、「俺」が銀行強盗を射殺しようとする場面に重ねている。また、太陽がまぶしかったから、と述べた殺人の動機についても随所で作中に反映している。私の作品では、この影響が強く、太陽についてはネガティブなモチーフとされることが多い。
あと、ひと狩りしようぜは、モンスターハンター(だよね?)。
文章で比喩がちょいちょいあるのは、文学を意識して。
5 ストーリーライン
⑴ 完璧な日において、赤信号無視や食人権デモがなされるなど、秩序の欠如が散見される。つまりこの時点では完璧=無秩序・自由、その象徴としての太陽という構図が存在する。
また、越谷の登場。この時点おいて越谷が世間的には取るに足らない故人であることが示される。
⑵ 無秩序で自由な世界においては暴力の行使は肯定される。グアテマラ出身のダダダから暴力装置であるトカレフを譲渡され、「俺」は暴力により意思を実現することが可能になる。さらにはダダダから暴力をそそのかされる。なお、グアテマラは世界有数に治安の悪い都市。
また、意味的には、無秩序とは対極的にカバディという競技規則を遵守して活動する者が存在いることは留意に値する。
⑶ 暴力による自己利益の実現、強盗狩り(強盗も同意味)に誘われ、強盗狩りに参加する「俺」。
強盗狩りの時がきたる。太陽=完璧=自由にさらされ、暴力の行使に傾く「俺」だが、取るに足らないはずの越谷の言葉を思い出し、翻意する。自由において、暴力の行使が積極的に許される状況において、暴力を行使しないこと、すなわちを秩序を持つことを選択する。「俺」は凡人である。越谷も凡人である。凡人を救うのは取るに足らない凡人のどうでもいい言葉であった。
⑷ 自らの納得する秩序において行動することを決めた「俺」は、カバディという1つの秩序において納得のいく楽しみを享受する。この時点において暴力の誘惑者たるダダダは児童公園に存在しない。
また、銀行強盗の鈴木、友人の秦野は、特筆すべき能力を持つ存在であることが示唆され、「俺」と銀行強盗の寺田は凡人であることが示唆される。「俺」と寺田の今後については不透明であるが、凡人であることが不幸に直結されておらず、少なくとも満足が可能になることが示される。「俺」は暴力を行使した場合に高級寿司を堪能できたであろうが、実際においても4人で仲良く回転寿司を堪能している。後者が前者に劣るとは断定できない。
最後に、「俺」はトカレフを手放し、暴力による自己利益の実現と決別する。
6 読者への想定
エンタメ小説は読みやすくないといけないとよく言われることであり、同意するところだが、読みやすいと理解しやすいは同義ではない。
つまり、文章としては読みやすいが、書かれている内容については結局よくわからないという状況は成立する。
また、エンタメ小説においては、わかりやすいことが重視されることが多いと思われるが、それはわかりやすい方が楽しんでもらいやすいからだ。
つまり、楽しい小説とはわかりやすい小説とイコールではなく、わからないけど楽しい小説は成立する。
以上を前提に、私は、「なんだかよくわからないけど文章は読みやすくて勢いがあって楽しい小説」というものを作成することが可能だと考える。
本作は、これを志向したものである。
つまるところ、長々とストーリーラインを書いたが、これを読者が把握することは困難だと思われるし、なおかつストーリーラインの理解が本作を楽しむにあたり必須とは考えていない。
先も述べたが、タイトルがWeb小説としてひきに弱いことからpv数、評価数は高くないと考えいた。
また、賞の結果としては、素晴らしき結婚よりマジックリアリズムが強くてまあちょっと難しいかなと思ってました。でも講評では好意的な内容が多く、その他の感想でも楽しんでくれた方がいて嬉しいです。
7 登場人物の名前について
ニック・スコルソン:特に意味はない。
竹田デススウィーツ:もし彼を食した者がいたら、中毒死しそう。あ、男だと思ってました。
秦野金成:特に意味はない。強いて言うなら銀行強盗狩りの発案者なので金の字を入れた。
越谷ばっ太郎:特に意味はない。強いて言うなら「ばっ太郎」が「ばったもん」と音が似ている。
成沢トメ:特に意味はない。老人っぽい名前にした。
エロい塚研吾:特に意味はない。
ダダダ・ヅチャー:DDD・DC=D4Cということで、「ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン」に登場するスタンドD4C「 いともたやすく行われるえげつない行為」から。「俺」にトカレフを渡して暴力をそそのかした彼女の行いは、まさに いともたやすく行われるえげつない行為であろう。
寺田うぇりな:特に意味はない。
鈴木誠也::特に意味はないが野球選手と同姓同名にした。
菫沢春久:特に意味はない。
ハサン・フセイン:特に意味はないが寿司職人なのにアラブ系にした。
弥勒・ラスコーリニコフ:ラスコーリニコフは「罪と罰」からそのまま。弥勒は、現代社会を舞台に罪と罰をオマージュした「罪と罰 A Falsified Romance」という漫画(双葉社、落合尚之。面白いですよ)の主人公「裁 弥勒」から採用。
ささやかの些細なお話 ささやか @sasayaka
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