私家版文福帖
安良巻祐介
近所の雑貨店「八雲」で購入したケトルの尻尾を掴んで午後のお茶を入れていたら、外でポーンとチャイムが鳴って、ばらばらと何かが散らばる音がした。
お茶を注いだカップを机の上に置いて、外へ出てみる。玄関先に、目にも鮮やかな色とりどりの木の実が散乱しており、その中心には、葉っぱが一枚置いてあった。
葉っぱの上には、濃い花汁であろうか、紫色の文字が、たどたどしく書かれている。
「近代薬缶ノ 御役賜ル 出世ヲ祝イ 勤勉ヲ祈リテ 贈ル …兄弟及ビ一族係累」
そしてその文言の最後に、獣の足跡らしい印が捺されている。
葉っぱと一緒に実を拾い集め、古手拭に包んで戻った居間で、棚から最新版の変化博物図鑑を出してページを繰っていくと、「狐狸其の外」の項に、同じ足跡を見つけた。
どうやら、『狸』らしい。
集めた木の実を机に並べ、吹き口からぷしゅぷしゅとどこか誇らしげな湯気を上げるケトルの小さい蓋…恐らく頭であろうと当たりをつけた辺りを撫でてみる。
「末永くよろしく」
そう告げて、カップを取り上げ、馨しい秋の薫りを鼻いっぱいに吸い込んだ。
私家版文福帖 安良巻祐介 @aramaki88
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