第7話 エピローグ

出来る事がある。今の私にでも。それだけで嬉しかった。


「ありがとう。あなたの言うように、彼を待っていられる場所に行きたいな。

そして彼とも会いたいけど、あなたともまた会いたいな。」

私は今の正直な気持ちを彼女に伝えた。


彼女は大きな瞳を一段と丸くして

「会えるよ!きっと。またあなたの生涯が終える時に。」

私は以前にも会った事があるのか聞こうとしたが、なんだかそんな事を聞かなくても、私は知っているような気がした。

そう思った時、聞きたい事が1つだけある事に気が付いた。


「あなたの名前教えてくれる?」

彼女はちょっと照れくさそうに


夢月むつき


とだけ答えた。


私も自分の名前を言おうと思ったら

「知ってるよ。陶子とうこでしょ。」

えっ彼女はそんな事も知っているのか?

よく考えたら何もかも知ってて当然なのかも知れないと思った。


夢月はおもむろに

「彼の子供って2人は男の子だけど、1人は女の子なんだ。その女の子は陶子って名前なんだよ。」と告げた。


嬉しかった。


優しかった彼の顔が、ちょっと照れくさそうに話す彼の仕草や声が、走る前に爪先をトントンと叩く彼の癖が、はっきりと思い出されて、暖かい気持ちになった。


「もう、そろそろ行こっか?」


私は夢月の優しい瞳を見ながら頷き、どちらからともなく差し出した手を握り、2人で入り口に向かった。


私はもう一度、部屋を振り返り遠くに見える窓の景色を眺めてから美術室を後にした。


2人がいなくなった美術室には、夢月の書いた笑顔の陶子が、キラキラとした生きた証を残していた。

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美術室の私 山代 寝子 @neko-y

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