第6話 私に出来る事

「幸せとも言えるし違うとも言える」


彼女は静かに答えた。

「彼はあの災害で、左半身に麻痺が残る大怪我をして陸上は出来なくなり、あなたがいなくなった事にも、激しい後悔と自責の念に苛まれた。

今もあなたの事を1日も忘れた事は無いし。その彼もあと少しで生涯を終える。」


私は涙が溢れて止まらなかった。

彼にも深い傷を残した事に。

私を覚えててくれた事に。

彼にも最後の日が訪れる事に。


「私に出来る事は何か無いの?

何でもいいから教えて!」

私は心から叫んだ。私が美術室にいる間、彼は現実で悩み苦しんで来たのが分かる。


「…難しいけど、強いて言うなら待つ事かな。ここではなく別の所で。」

そう言った彼女の瞳が月のように優しく私を見つめていた。


「あなたは私を迎えに来たの?」彼女の瞳を見つめていたら不思議と、穏やかな優しい気持ちになった。


彼女は自分の、無造作に束ねた髪で遊びながら照れくさそうに「まあね」とだけ答えた。

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