第2話 興奮・憧れ・絶望

 朝5時半には起床し、早めの朝食をとる。その後、玄関ポストから手に入れた朝刊を片手に、優雅な朝のコーヒータイムを楽しむ。俺はこの時間が大好きだ。誰にも邪魔されず、穏やかに過ごせるこの時間が。なのに、

「ちょっと氷月君ー。その皿洗っといてー。」

「いや待て!おかしいだろ!」

 なぜこうなってしまった。

「何がおかしいのよ。私に協力するって言ったのは君じゃない。」

「ああ言ったさ!お前が『この財布を返してほしければね!』とか悪魔みたいなこと言いだしたからな!」

 そう、あのコンビニの出来事には続きがあるのだ。俺が協力することに渋っていると、あいつが脅してきたのだ。俺の生活費君を人質にして。

「そもそも俺は、協力してやるとは言ったが家に泊めてやるとは一言も言ってないぞ!」

「......ちょ、朝食のパンおいしかったわ。あ、ありがとね。」

「さらっと流してんじゃねえよ!しかもお前が勝手に食ったせいで俺の分が無くなっちまったんだろうが!」

「な、何よ!ちゃんと蓄えておかないのがダメなんでしょ。ほら、いい教訓を得られたわね。私に感謝なさい!」

「開き直るんじゃねえ!」

 もうやだ。今すぐ学校行く。

 そうして俺は家を後にした。ろくに新聞もテレビも見れなかったが、いつもよりやけに騒がしいような気がした。


******************


 日が差して外は適度に暖かく、春風がとても心地よかった。最寄りの駅から、通っている高校付近の駅まで電車で移動し、降りた後は徒歩で学校へ向かう。校門近くまで行くと、右肩にどすっと慣れた重さを感じた。

「よう、澪」

「おう、大智か。」

 こいつは「桐山大智」きりやまだいち。俺の竹馬の友であり、唯一の友達。イケメンで良いやつ。そのうえ文武両道であり、魔法の扱いにも長けているというパーフェクトヒューマン。得意魔法は「電磁強化」エレキブースト

「どうしたんだ、浮かない顔して。」

「まあ、いろいろあってな......。」

 あいつのことは口が裂けても言えない。

「まあ元気出せよ。なんか今日うちのクラスに転校生が来るらしいぞ。......それが物凄く可愛い女の子って噂なんだよ。」

「本当かよ。それって星宮さんより? まあでも、俺は星宮さん一筋だからな。」

「フゥー、かっこいい!」

 星宮さんとは、俺が小学校から片思いしていて、現在同学級の「星宮葵」ほしのみやあおいさんのことで、優しくて可愛くて勉強もできて.....とにかく理想の女の子だ。

「............澪、そういえば今日のニュース見た?」

「ちょっと忙しくて見れてない。どんなニュースだったんだ?」

「.....いや、別に気にしなくてもいいよ。」

 そうして大智はニコッと笑った。

何か言いたげだったが、あえて聞かなかった。聞かない方がいいと思ったから。


******************


 いつも以上に騒がしい教室。学級内は例の転校生の話題で持ちきりだった。といっても、俺は話す友達がいないので窓の外を眺めていた。

「なあお前ら、転校生にはどっちであってほしい?」

「断然山です。」

「おい、平地をなめんなよ。」

「いやいや発展途上国くらいでしょ。」

 お前らデリカシー無さすぎだよ。カモフラージュしてるのかもしれんが全く意味ないぞ、それ。海外商品の説明書くらい意味ないわ。周りの女子もドン引きだわ。

 すると一人の女子が注意する。

「ほらだめでしょ。そんなこと言ってたら転校生ちゃんに嫌われちゃうよ。」

『す、すみませんでした!』

 ナイス星野宮さん。いいね10万回したい。

「おーい、みんな静かに。」

 担任の声で全体が静まる。てかいつから居たのこの人。

「これから転校生を紹介します。」

 まあ、可愛い子は見ているだけで癒しになるしな。どんな子なんだろう。

「入ってきていいわよ。」

「はい、失礼します。」

 この瞬間、俺は何かを悟った。


「転校してきました、蒔田明里です。」


「うおおおおお!!」

 男子は興奮の叫びを、

「キャアアアア!!」

 女子は憧れの叫びをあげ、

「どうしてだよおぉぉぉ!!」

 俺は絶望のセリフを叫んでいた。


「みんな、これからよろしくね。」

 

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タイム&マジック 垣崎 史郎 @IYSign

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