ある日、火の国で王からの布告がなされた。それは、国内で相次ぐ怪奇事件を解決した者を次期王位継承者とするというもの。
王位継承権を持つのは第一王太子のユリアスと、第二王太子のアッシュ。誰もが人望と実力を兼ね備えたユリアスに味方する中、美しき男装の騎士フェンは、とある打算により、迷わずアッシュを支持することにしたのだが――。
ファンタジーの幻想的な美しさ。
人間が持つ、煮えたぎるような怒り。
心に巣食う憎悪、復讐、戦争。
次第に惹かれていく甘酸っぱい恋心。
主人公のフェンとアッシュをはじめ、二人をとりまくサブキャラたちもみんな魅力的で、とても愛しくなります。20万字以上ありますが、ページをひらけばあっという間に読めてしまいました。そして、読後の満足感がすごい。
繊細でありながら重厚で、やさしくも硬質で、あらゆる要素が絡みあった盛りだくさんの物語。やさしすぎる二人が苦悩の末にえらんだ道とは。ぜひ、直接ご覧ください……!
印象的なのは、登場人物たちの瞳の輝き。
目論みも、羨望も、怨念も、希望も愛も、彼らのまなざしは刺すように美しい。
本性を隠し『敵陣』に潜む騎士となる彼女。
何者も気圧する鋭く研ぎ澄まされた、しかしある陰を孕む第二王太子殿下の彼。
二人の背けあった指針はやがて少しずつ、少しずつ、まるで時計の長針と短針のように重なり合って、しかしまた分かれ。
二人を囲うサブキャラクターたちも一様に輝かしく愛らしく、最後の最後まで目が離せない物語。
水の国の民と、火の国の因縁とは?
銀細工のような上質で滑らかな物語、是非ともご覧いただきたい。
もちろん、そう、ご本人評する『鈍器のような』書籍でも。
片や戦勝国の王子、片や敗戦国の王女。
因縁が渦巻く二人の道が重なり合う時、未来は既に決まっていたのかもしれません。
最初はいがみ合っていたはずの二人が、次第に己の声に耳を傾け、歩み寄っていく姿はとても尊いものでした。
普通は復讐や恨みに飲まれてもおかしくはないはずなのに、王女フェンはそれでも憎いはずの相手の心の痛みや苦しみに触れていく。
王子アッシュも、最初は色んなものから目を背け、逃げ、諦めていたのに、彼女と出会って救われたことで変わり始めます。
二人の優しすぎる理想は、時に周りを巻き込み、苦しめるものではありますが。
だからこそ、彼らの優しすぎる理想が世界には必要であり、それを信じて歩く彼らが眩しくも映ります。
最初から最後まで緊迫感溢れる物語でした。
そして何より、二人の心の揺れや移り変わりの変化の描き方が、素晴らしい物語です。
彼らの心の動きに伴って風景の描写も一緒に流れていくその様は、まさに輝く一枚絵を連想させます。
二人の周りを取り巻く者達も生き生きとしており、魅力的です。
彼らの描く道筋と共に描かれていく未来に、読んだ者は惹き込まれていくことでしょう。
そうして、みんなが痛みを、過去を乗り越えた先に、待ち焦がれた未来が広がっています。
是非とも一読して頂きたい、素敵な恋愛物語です。