これにて世界の始まり始まり

ヤマハギ

第1話 人生の終わり、神生の始まり。

 私は死んだ。トラックに轢かれて。いやぁ、我ながら馬鹿だなぁと思ったよ?でも、仕方ないんだ。子供が轢かれそうなら助けたいよ。ついでに私が死んで万々歳だ。


 これで新しい人生も良いものが送れる……え?転生は無理?転生先の世界が最近滅びた?どうする…って…あっ、神様になれるって?



 



 不肖、高根 雪 享年27歳 私は神になった。特に労することも無く。なんか世界を作る仕事を回されたんだけど、つまり新世界の神という事だろう。つまりそういうことだ。

 というか世界を作るのってそんな末端の末端に任せるものなの?とか、何億年もずっと待ち続けないといけないの?という疑問が湧いてくるけど、聞くところによると、世界を作るのは7日間だけでそのあとは世界の流れに任せるという体系を取っている為か、失敗も多いらしい。 

 億、兆、京…と世界を作っても成功するのはたったの一握りもない。今では数を増やす為末端にまで世界を作る業務が回されているという訳だ。 

 神が世界に介入することも出来なくはないが、それを行なった場合のその世界は失敗と看做される。とかなんとか。


「え?なんで?」


「すごいな君。神にタメ口とかそうそうしないよ?」


「私も神なんで。嫌なら、う〜〜〜ん、ま、しょうがないですね」


「え?すごい渋々じゃん。しかもついさっき神になったばっかじゃん。君順応早くないか?」


 臨時アドバイザー兼神のニアンは、ひとつ大きく咳払いをすると、はっきりとした声で切り出した。


「あー、諸君、よく聞け!正直なところ今すぐにでも取りかかってもらいたいから説明はごく一部の重要な事だけに留めた!まあどうせマニュアル配られるし良いかなって思ったりしなくもなかった!!うん…することは簡単だ。ただ失敗は必ず起こるものと思って良い。いや、起こる!!だが気負わずにやってくれて構わない!!やることは、世界を作って、観察、そして報告!以上!簡単だろ?報告は成功した時と…面白いものが出来た時だけだ!!まあ、どっちもそんな簡単にできるもんじゃないけどね。言うことはここまでだけど誰か質問あるか?」


「はい!はい!はーい!」


 一際テンションの高い新人、もとい新神の青年が手を挙げた。


「魔法の使える世界とかって作っていいんですか?」


「ああ、構わないよ。ただ、作れるかどうかは別だけど。注意事項がマニュアルに書いてあるから読んでおいてね。他には?」


 私はどうしても気になったことがあった。言う必要がない、こともないだろう。でなければ今私たちは何をするんだと、ただポンコツで言うのを忘れてただけならまだ良い。ただ、敢えて言うのを避けているのなら、どうだろうか。


「無いみたいだね。じゃあこの辺で切り上げて早速仕事に取り掛かるとするか。解散!」


「ニアン様は目の前で手を挙げている人を見つけられないほど盲目らしいですね〜」


「ちっ…なんだ?からかうだけなら聞かないよ」


「目的です」


「?」


「世界を作る目的を聞いていませんよね?」


 神が作った世界に介入した場合、失敗と看做される。それの説明がない。


「ああ、ん、聞くのか…いや、聞きたいか?」


「まさか理由も聞かずに労働をおこなってくれる都合のいい人員だとでも思ってましたか?こちらにも選ぶ権利はあるはずですし、まさか神様ともあろうお方が死んですぐの人間を強制労働無償労働させるようなそれはもうよろしい性格をしてる訳がないですもんね?」


「いや、無償だぞ。お前何になったと思ってんだよ」


 は?じゃあご飯は?今まで適当に生きてきた分のツケが地獄として回ってきたのか?そんなバカな話が…


「だからお前は神になったんだぞ?その意味がわかるか?」


「あ、えっと、じゃあ…どういうことですかね?」


「神になるのが対価、あとは自分でなんとでもしてくれ、なんとでも出来るからお前のメシくらいは簡単に出る。というか栄養取らなくていいから嗜好品でしかないけどな」


「マジですか?」


「マジ」


 どうやら一番神様に馴染めてなかったのは私のようで…順応早くなくない?じゃない。違う。これじゃない。私が聞きたいのはそんなことじゃなくて…


「あー、いやいや違う。違うんです。違います。聞き方間違えまくった感ありますけどそっちじゃなくて世界を作る理由です。あんたらが作った世界のせいで私がどんな目に遭わされたか知ってますか?知らなくていいですよどうせしょうもないしチンケなものですし。でも世界がなかったらなあなんて思わなくもなかった。それの理由をはぐらかしてるようじゃ私が信用できるかってんだこんちくしょう!あーあ、どうせならトラックじゃなくてお花畑の中で死にたかった!」


「それにはお悔やみ申し上げる。が、そうだな、介入してはいけない理由としては【流れ】の為だ。確かに神が世界に介入すればその生物は救われる。だが神はその世界に一人だ。それで誰を救う?信者か?悪人か?猫かカマキリか?誰を救うにしても救ったという結果が残ればそれを誰しもが求め出す。そして救済を求め始めたらどうなると思う?歩みを止めるんだよ。一人を救えばその他大勢が不幸になる。もしかしたら全ての生物がそうかもしれないな。基本的にはそうなるのは人間だけだが。誰を救うか?じゃない。全てを救うんだ、神ってやつはな。ただこれを聴いたやつはだいたいがすぐに世界を作るのをやめた。最初に聞くのには重荷が過ぎるような話だから言わなかった。これでいいか?なんだ、不満気な顔をするんじゃない。あ、さてはお前俺が悪だっていうのが欲しかっただけだろ」


「そんなんじゃないですよ。ただ気になっただけ」


 少しだけ期待していた。神様が悪だったら、なんて。だったら作ったやつをビンタして、やったぜ。それでスッキリ終わるもんだと思ってたから。なんか、自分が悪いみたいで、複雑な気持ちだ。


「さ、いいか?用意してやれるのはとりあえずこんなもんだ。後で欲しいもんは自分で作るか、こっちでも検討してみるからな。はいじゃあ解散!」



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