観光旅行

時流話説

第24話 観光旅行


 ひゅう、と産声を上げたのはどこかの南国だった。日本よりも南の太平洋の小さな島で生まれた気がする。ただ青い空と青い海の身がある場所で私は発達した。

 風の赴くままにあたたかな空気に囲まれて、私は成長、その身体を存分に振り回し続ける。はっきりとした目を手に入れた頃には、今どこにいるのかが理解できるようになっていた。



 そうそう、日本だったか。

 日本の話だ。

 自然溢れるこの島国でたくさんの人々や動物や建造物に出会えた時、私はこのに来て良かったなという気持ちと、私がそれらに良くない影響を与えることに心が痛んだりもした。が、これだ---こういう生き物として生まれてきた。生来、身体を振り回していないと落ち着かないという稀有な特性を持つ生物だ。



 雨は盛大に降らしている。

 降水現象は古来では人々にえらく喜ばれたものだ。それこそ神の使いだと言われたこともあったが、こんにちでは単なる乱暴狼藉にしか思われてないらしい。



 我が名は台風二十四号。チャーミーと呼ばれたこともある。

 蝉のように短い生をまっとうした後、私は無害な青い空に変わる。短い人生だ、もう少し好き勝手振り回したかったが私はここまでのようだ。



 日本人よ、覚悟しろ。私が消えても、第二、第三の台風が日本にやってくるだろう、次の奴。二十五号とかがやってくるだろう。第二第三どころではなくてすまんな。文明の利器で気象情報をチェックしろ。我らから目を離すな。



 私は無害になった、丸くなった。意識が消えるまでは北海道観光でもするとしよう。

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