モンスターへ乾杯!

流々(るる)

あるモンスターハンターの独白

 2×××年、今年もモンス怪物ターたちを一斉捕獲する時期がやって来た。



 この地日本では、巷に現れるモンスターたちを自由に狩るのではなく、時期を定めて捕獲する規則ルールとなり既に数十年が過ぎようとしていた。

 そのため、一年を通じて十分な準備をしたうえで、この解禁日を迎える。もはや個々で狩りを行う時代は終わり、調査班や分析班、実際にモンスターたちと対峙する班など、複数の班が一つのチームとして挑む――それが我々モンスターハンター、通称モンハンなのである。


 モンスターと言っても最もランクが低いFランクからAランクまで、さらにその上のSランク、SSランクと色々あるが、我々がターゲットとするのはAランクより上の上級モンスターだ。

 中でもSS級のモンスターは数年に一度しか現れないと言われており、私もまだハンティングに成功したことがない。今年も――いや、その話は後に回そう。


 調査班の仕事は、生息地の確認や活動状況のヒアリングに始まる。場合によっては幼体の頃から長期間にわたり張り付いて調査を続けることもある。

 彼らが収集したデータを基にして、モンスターの能力を数値化することが私の所属する分析班の仕事だ。私たちが算出した数値によりモンスターの特徴を掴むことが出来るため、ハンティングの成否が決まる作業と言っても過言ではない。それほど、チームの中でも大きな役割を占めていると自負している。

 ある優れた分析ハンターを高額の報酬で引き抜いたチームが、その後に顕著な成績を上げるようになったことはモンハン界の夢物語ジャパニーズドリームとして今も語り伝えられているほどだ。



 モンスターたちの能力はHP体力、攻撃力、守備力、すばやさ、かしこさの五項目に分類するほか、かいしん率・みかわし率といったデータも補足資料として算出する。

 我がチームでは「敵として対峙した時にどれほど厄介な相手となるか」というのが評価の指針となっているので、各ポイントのバランスが良いことよりも、多少の欠点には目をつぶってでも攻撃力もしくは守備力が突出している方が高ランクとなる。 

 また、もう一つの重要な評価基準として「覚醒」が挙げられる。

 特定の条件下における覚醒により、能力をさらにアップ出来るか否かを見極めることは難しいが、個々の性格が大きく影響していることも最近の調査で判明した。

 代表的な例としては、「あまえんぼう」「うっかりもの」「せけんしらず」といった性格は能力のマイナス要因となるが、「ラッキーマン」「みえっぱり」「いっぴきおおかみ」などは本来の能力値を上昇させることが分かっている。


 そして“MOM真の怪物(monster of monsters)”とも呼ばれるSSランクに共通しているのが、攻撃力と守備力が共に高い数値を示していること。


 記録に残っている中で、初めてSSランクとして認定されたのは四十五年前のサワ・グレウグ(業界内における呼称は世界共通とされている)だが、ヤツは並外れた守備力の影でAランク以上の攻撃力を持っていたことも知られている。

 三十三年前のロコ・ザクヒヤラヒ、二十六年前のフチ・ケミダシは攻撃力と共に守備力も高かった。

 二十年前に現れたメタ・ザククチダシは今でも現役のSSモンスター。驚異的だった守備力は衰えたものの攻撃力は相変わらずで、今年も西方でヤツの攻撃を喰らった街がある。

 そんな中、我々モンハンの常識を覆すSSモンスターが六年前に現れた。

 イオ・セナウヨトヒ。

 ヤツは攻撃力、守備力共にSランク以上の力を持つという、まさに規格外のモンスターだ。捕獲の可能性は限りなくゼロに近いと思われたが、その性格を利用した特殊な攻略法で、あるチームがいったんは捕獲に成功。しかし、すでに脱出し活動範囲を米国にまで広げている。

 まだ、能力の底を見せていないヤツを捕獲する機会が訪れるのか。モンスターハンターとして、一度は携わってみたいと思わせる相手である。



 さて、今年の捕獲リストだが、既にチームへ提出してある。

 若いモンスター二体にSランクの評価付けをしたものの、SSランクは該当なしと判断した。この二体の性格を考慮すると、早い段階で覚醒の予感もあるのだが……。

 どのモンスターをどうやって攻略するのか、それは別の班が決めること。

 例年と同様、私も巷の人々と一緒にこの捕獲劇を楽しませてもらおう。




         *




「2018年度、新人選手選択会議。

 第一回選択希望選手、中日、根尾昂、内野手、18歳、大阪桐蔭高校」




※注記

・かいしん率:会心の当たり、つまり長打率を示す。

・みかわし率:三かわし、つまり三振奪取率を示す。

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