第1話 彼岸花.....それはとても儚く。

 〜1〜


「はぁ」

 青年は、謎のため息を吐きながら、見飽きた階段を上る。

 彼の名は 千寿せんじゅ 想太そうた

 和国と呼ばれる国に生まれた、至って普通の青年である。

 誇れることなど何も無く、強いていえば乗り物を人並み以上に乗りこなすことぐらいだ。


「ここが、言われた部署の部屋……なんだよな?」

 電話の内容に、若干戸惑いながらも、洋式のドアを軽くノックする。

 すると、すぐさま返事が聞こえてくる……はずもなく、2回、3回とノックを繰り返す。が、物音すら聞こえない。

「中に誰もいないのか……?」

 ・・・。

 苛立ちを募らせた想太は、無理やりドアを開けた。

 途端。


 ゴンッ!


「いったぁぁああああ!!!!!」

 突如、上からたらいのようなものが、想太の頭部に直撃。

 その直後、目の前から笑い声が聞こえてくる。

 だが、その笑い声もすぐに収まり、ひとつの質問が飛んできた。


「君が、新入りかい?」


 その言葉は、心配を意を込めてくれたのか、それとも別のニュアンスがあったのかは分からない。

 でも、これだけは言える。


 頭痛い。


 〜2〜


 痛みを堪え、質問を返そうとするが、脚がふらついて、思うように動けない。

 まるで生まれたての子鹿みたいな。

 だが、動きだけで、向こうは理解したのだろう。

 それ以上の問はなかった。

 しかし……。

「やぁ!ここは探求者事務所夕ヶ丘支部!そして!私がここの所長のたちばな七凜ななりだ!気軽に『橘さん!』とか『ナナリー』とか『ななりん』とか『女王様』って言ってね☆」

 代わりに、謎の自己紹介が部屋中に響きわたった。

「えーっと……え?」

「ヨロスク!」

 これ以上は話が進まないので何も聞かない事にした。


 〜10分後〜


「ところで君の名前は?!」

「あ、千寿 想太って言います。よろしくお願いします。」

「そっかー!想太くんね!おけおけ、あ、橘さんでもいいよ!」

「あ、はい」


 ……。


 おかしい。


「どうしたの?想太くん?」


 明らかにおかしい。


「えーっと。」


 言おうか迷ったが、なんか言わなきゃいけない気がしたのだろう。


「俺達以外に、人いないんですけど。」


 その言葉を口にした。

 その瞬間、何故か橘さんが耳を塞いで土下座した。


 〜3〜


「なんで人がいないんですか?」

「アーアーナーニーモーキーコーエーナーイー」

 あ、ダメだこの人、考えることを放棄してる。

「ほら耳から手を離してくださいよ」

「ヤダヤダヤダ」

 赤ちゃんかよ。

「あ、想太くん今、赤ちゃんかよこいつ的なの思ったでしょ?!」

「なんで分かるんですかね?!」

 サラッと当てていいレベルではない気がする。

 というか。

「いい加減教えてくださいよ!」

「……怒らない?」

 ……別の意味でキレそう。

「怒りませんよやだなー」

 そう答えると橘さんは謎の咳払いをし、いきなり眼鏡をかけ、腕を組み始めた。

 というか胸強調されすぎでしょ。

「今から言うことは結構大事なの。ちゃんと聞いてね。」

 謎の威圧感に背筋が凍りつく想太。ビビりすぎて返事もできず、コクッと頷いてしまう。

「ここはね……ただの訓練所みたいなところなのよ!」

 マジか……。


 え?


「すなわち、見習いってやつ!君はまだ探求者にすらなってないのよ!」

 えーっと……。


(お偉いさんに)キレそう。


 その後、完全にキレた想太は、ちょっぴり反省した橘さんに、アパートの鍵を半ば強奪気味に奪い取り、すぐさま新居へ向かった。


 〜4〜


 日は既に沈みかけており、また、人も見かけない。

 空は紅色を薄く残し、少しずつ蒼く染まってゆく。

「冷……い」

 季節は夏の終わり頃、冷たいはずはないのだが、はそう言った。

「誰か……助け…て」

 土に染みる深紅の液体が、何かを物語るかのように見える。

 また。

 何故かそばに咲いていた彼岸花が、より一層、輝いていた。


「誰か……」


 〜5〜


 もうすぐ見えてくる(と、思われる)新居アパートへの道のりを辿る途中なか、想太は異変を感じた。

 飛び散った深紅の液体、それが『血』と分かるまで、そう時間はかからなかった。

「?????」

 そして想太を1番困らせたのが道のど真ん中に倒れ込んでいる、一人の少女だった。

 その少女の周りの土には、大量に染み込んだであろう血液の跡があり、また、全身傷だらけだった。

 年はいくばか下なのだろう。しかし、そう考えると尚更酷い。

 何故なぜこんなことが起こったのか、よく分からないが、想太はひとつの答えを導き出した。


「家に連れてこう」




 後で思い返したわかったことは、この行為は、ただの不審者だったということだけだった。


 続く

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見習い探求者は明日を視る。 狂ってるひと@crt0816_ @crt0816_

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