VRの神ゲー、速攻でクリアする

てる

第1話:はじまり

 ……なんだこのゲーム。


 俺がこのゲームのレビューを見て、初めに思ったことだ。


 5点満点でつけられる☆の数の平均は3。しかし、その配分に少しばかり疑問を持った。


 大半を占めるのは☆2だが、その次に多いのが☆5レビューで。

 面白いことにその内容はどちらも同じだった。


『難しすぎる』『クリアできるの?』


 そして、それらのレビューを見たとき、俺はこのゲームを始めることを決めた。


 ◇


 五感完全没入型VRゲーム機、FUTUROフトゥーロが売り出されてから丁度一年。

 今頃になって、なんでまたこんなゲームが出てきたのか。そう思わせるほどに、内容は不評だった。


 グラフィック? とてもいい。操作感? 自らの体を軽くしてかなり動かしやすくしたかのように感じる。今までのゲームとは比べものにならないほどの完成度だ。どの面を取って見ても、神ゲーを予期させるには十分な内容だった。

 ただ、一点。難易度があまりに高すぎることを除けば。


 そのゲームの名は『サント・リオン』。オフラインオンリーの、箱庭アクションゲームだ。


 ◇


「ははっ、すっげぇ」


 VRゲーム機に慣れ親しんだ俺でも大はしゃぎするくらいには、本当に新しい感覚だった。


 走ったり歩いたり。ジャンプしたりしゃがんだり。

 自由自在に動かせる。こんなVRゲーム初めてだ。


「ってことで、早速やってみるか!」


 それから3ヶ月、そのゲームをやり、ついにクリアした。クリアの瞬間は、他のゲームで感じたような『虚しさ』や『脱力感』は一切なく、ただ『達成感』だけが身に染みていた。


 ◇


 その日、俺は座椅子にもたれかかり、「はぁ」とため息をついた。サント・リオンをクリアしてしまったため、やることが無い。


「うーん、オフラインゲームってのはやり切るとやることが無くなるんだよな……暇だ。たまにはニヤニヤ動画でも見てみるか」


 日本の有名動画サイトであるニヤニヤ動画を開き、ランキングをてきとうにスクロールしながら見ていると、ふと『サンリオ』の文字が目に入った。

 掲示板発の『サント・リオン』の略語だ。「少し気になるし見てみるか」それくらいの気持ちでそのタイトルに目を通す。


「ん……。 はぁっ!?」


 見たタイトルは『【サンリオany%RTA】3:17:17【WR】』。


 俺が200時間かけてクリアしたものを、たったの3時間で走りきるもの。


 いや、正確には少し違うか。俺はすべての要素を取りつつのクリア、いわゆる100%クリアに200時間を費やした。しかしこの動画は、いかに速くエンディングを見るか。それだけを考え作り出されたものだ。



「……かっけぇ」


「はぁ……」と感嘆のため息吐いた。


 気づくと、3時間が経っていて、動画ではエンディングが流れている。


 端末をスリープモードにした後、座椅子の背にもたれかかり、また。


「……かっけぇなぁ」


 先ほどの動画を思い返して、また呟いていた。

 そして次の瞬間にはガバっと起き上がりFUTUROの電源を入れていた。


 早くやりたい……!!


 その想いがただ渦巻いていた。


「1ステ目の1ゴール目。あそこの壁を蹴ってむこうにショートカット……!!」

「1ステ目24ゴール目。ここの敵に当たった反動で向こう岸までジャンプ、ギリギリ届く……!!」

「2ステ目13ゴール目。スタート直後後ろにジャンプで捻りを加えてそのまま下へ……!!」


 先ほど動画で見たあらゆる技を試してみた。すると、気づいた。


「……練習すれば、俺でもできるんじゃないか?」


 動画を見ていた時は、神業を見ているようだった。

 しかし、今ならわかる。これは、安定させられる類の技だ、と。


「ははっ、やるしかねぇよなぁ!?」


 そして、VR世界で一人、ひたすら大声で叫んだ。


「俺は必ず、お前に追いついてやるからな! ニアアアアアアアアアアアア!!」


 ニアというのは先ほどの動画の投稿主。あの動画についていたタイトルにはたしかに、【WR】とあった。それは世界の名を冠する証。綴りはWorld Record。要するに、世界記録だ。


 そして俺は、たった今誓った。いつか俺は世界記録を取ってやる。RTA、本気でやってやろうじゃねぇか。


 俺の決意は固い。そして心に生まれたこの熱意の炎は、世界記録を取るまで、絶対に絶やさない。


 必ず俺は、『アイツ』を超える。

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