東京終末脱走

タツキ

第1話 今日の青空に鴉舞う

誓いは踏みにじられた、

約束の言葉も誓いも、

神々と巨人のあいだにとり交わされし

厳かな取り決めすべては。(北欧神話より抜粋)



 今日も晴れてる。二週間前に大きな台風「二十二号」が来たことなんて去年のように思えるほど涼しい。(誰も暑いときにしか台風は来ないとは言っていないが…)

 いつも通り朝五時に起きて風呂に入る。風呂を出て二枚のスポーツタオルを使い、適当に体を拭く。風呂の目の前にある洗面所でニキビのある顔を気にしながらCMでやってるエメラルドグリーンの装飾の入った洗顔料で顔を洗う。最後に常に跳ね狂う癖っ毛を大好きな恩師の前でも恥ずかしくないようにワックスを使って整える。もう目が覚めてきた。

 自室や浴室のある二階からダイニングのある三階に上がると、未だ眠そうな顔をした両親に朝の挨拶をしてキッチンの前にあるカウンターの定位置に腰掛けた。母が眠いとぼやきながら俺の昼食用弁当と朝食を手際よく作っていく。テレビを点けると五時半でキリがいいからかアナウンサー達が集まって何やら今日のニュースの予定などを話している。俺はいつもこの時にその日の日付を確認する。今日は二〇一八年十月十一日の木曜日らしい。そういえば定期考査が間近に迫っているな。パンが焼けたと言って母が朝食を差し出してきた。いただきます。

 いつも通りおいしかった。ティッシュが欲しいと母にジェスチャーを送ったが、毎朝のことながら気づかず自分で取りに行く。弁当と水筒、プロテインの入ったシェイカーを持って二階に下りる。学校に行く準備をして、歯を磨きトイレに行き制服に着替え、荷物を持ち両親に出ると告げ玄関へ向かう。


 雨が覚めて窓の外を見た時も思ったが、今日は空の青と雲の白のグラデーションが綺麗だ。特に雲の形が珍しい。などと空を見ながら五分ほどで築地駅についた。いつも通り六時二十一分中目黒行き。神谷町駅で降りるのが便利な三号車に向かう途中にいつもの何か楽器を背負ったメガネの女学生とすれ違い、ちょうど来た電車に乗り込む。未だ通勤ラッシュの始まる前の混んでいない車両で空いた席に座り込む。最近始めた音ゲーを一曲だけ音なしで楽しんだらもう神谷町駅だ。オフィス街だからか多くのサラリーマンがこの時間帯でも降りる。いつも通り億劫な坂道をダラダラと登り、校門をくぐって教室に向かう。

 その途中に校庭を通るのだが、今日は何故か違和感を感じた。からすがいつもより多い気がする。そしてその真ん中に白い鴉が一羽だけ居る。そいつらがガァガァとけたたましく喚き散らしていた。鴉が好きという変わった趣味のある俺は二分くらい眺めていて、はっと我に帰り教室に向かった。


 五階までエレベーターに乗り、トイレ横の教室に入る。廊下側から二列目、後ろから二列目。荷物をおいて、地下へ向かう。制服店のおじさんにギターを借り十五分ほど弾く。他愛もない話をしているうちに七時のチャイムが鳴る。もう直ぐ教室に戻ろうかと思う時に仲のいい先生が制服店前の裏門へやってくるのが見えた。一緒に行くことにしよう。一限が音楽だからギターをそのまま借りていく。放課後また来るとおじさんに告げたところで、丁度先程の先生がやってきた。彼は生物の先生。俺の所属する柔道部の顧問の一人である。折角なので、さっき校庭で見かけた鴉の話を振ってみた。彼はよくわからないと答え、数秒の間を空けて話し始めると同時にエレベーターの前に着いた。話を要約すると、白いカラスは人が亡くなる直前に現れる不吉なものだと、大勢のカラスが集まり泣き喚くのは解らないとも言っていた。話し終わると同時に五階に着いた。先生に会釈をしエレベーターを降りた。


 教室に足を向けると、中からいつもの二人の声が聞こえた。去年、つまり中三の時にクラス替えで同じクラスになり仲良くなった繁田(あと二十分くらいで来る。と思う…)と仲が良い菅沢と山田は毎日この時間に来る。二人とも面白いやつである。まあ、山田は何故か隣のクラスなのに俺の教室にいるのだが…細かいことは気にしない。戸を開け教室に入り二人に軽く朝の挨拶をし、他愛もない話を永遠とする。七時二十五分になると大きな足音を立ててあるものがやってくる。先述の繁田だ。昨年から二年連続同じクラスで趣味がそこそこ合ったからか、仲良くしてもらっている。軽く挨拶を交わしているうちに、廊下の端っこにある教室から俺の所属する写真部の同輩である小山がなぜかたくさんのプリントの入ったファイルを持って俺らの教室に入ってきた。彼も今までの三人も少し変わっている。どう変わっているかを説明するのはとっても難しいため割愛させてもらおう。そうこうしているうちにもう予鈴がなった。なんだかんだ言って彼らと話しているのは楽しい。一限は音楽だ。地下一階の第一音楽室へ借りたギターを持っていく。学校での一日が始まる。


 授業中、隣の席の奴と話したり寝たりしているうちにもう六限になっていた。数Aの担当教員である池之上先生を煙たく思いながら、ノートに落書きをしていた。

 その時どこからかゴゴゴゴゴゴゴー、と低くどこか不安を煽られる轟音がクラス全員の耳に入った。その瞬間俺は迷いなく机の下に潜った。数秒もたたなかったと思う。さっきとは比べ物にならないほどのけたたましい轟音と共に大きな揺れがやって来た。


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日本時間二〇一八年一〇月十一日午後二時十三分二十四秒

平成三十年関東大震災 マグニチュード九、一 震源地は相模灘

最大震度は関東一帯で七を観測した

以降、都市機能は壊滅し、大阪にて政府の裏方が働いたことによって、時の危機は免れたが、危うい状態で日本政府が続行することとなった。

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大きな揺れは収まったが、まだ揺れている。先生の声がしない。遠くから鳴き声や叫び声が聞こえる。さあ、どうしたらいい。机の下から出て窓の外を見た瞬間、俺の網膜に焼き付いた映像は凄まじいものだった。

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