第2話~最初の~
「寂しい…。」
後に召喚魔導と呼ばれる赤魔導を一人研究するフリードは寂しさに震えていた。 自らが選んだとはいえ、人里離れた場所にたった一人。
夜は不気味な鳥の鳴き声が響き、風の出す音にもびくりと体を震わせる。 初めて知る自分の新たな一面に戸惑いながらも、空腹を押して心を支配する【寂しい】という感情に飲み込まれていた。
「僕はこの世でたった一人…。」
よくわからない状態に陥っている。
ブツブツと何かを呟きながら、研究用にと用意していた紙束の一枚に寂しい寂しいと呪詛のように書き続ける。 瞬間的に強い風が吹き、ガタリと立て付けの悪い窓が大きな音を立てて揺れる。 「ヒイィ」と情けない声を上げながら布団の中へと潜り込む。
「ちくしょう…!ちくしょう…! 誰がこんな目に合わせてるんだ!」
自業自得という言葉がとてもよく似合う台詞を布団の中の世界で叫ぶ。
「一人は嫌だ…一人は嫌だ…! …んっ…んん?…あっ!!」
フリードは布団を跳ね上げやっと自らがここに来た理由に思い当たった。
「そうだ! 同居人を呼ぶんだ!」
次の日の朝。
フリードは食事用に購入した平皿に触媒となる【水】を注ぎ、触媒となる【野草】をその中で浮かべていた。
もっとましなものは無かったのか…とも思い返すが、ここ数日は水と野草だけで過ごしていることを思い出し、仕方がないか…と肩落とす。
水と野草。
スープにもならない組み合わせで一体どんなものを呼ぶことが出来るのか。
これまでフリードは単一のものを触媒にすることでの【呼び出し】を幾度か成功させていた。 野草を触媒に魔導を用いた結果、茎から上を千切られていた野草から、立派な根の生えた野草を呼び出すことが出来た。 水を触媒に魔導を用いた場合は、よくわからないがお湯が変わりに現れた。
微妙ではあるが、触媒であったころよりも少しは良い状態のものが【呼び出し】によって現れている。 大成功とは言えないが失敗とも言えない、研究という作業においてはしっかりとした立派な一歩である。
「さて、やるか。」
フリードは皿の中にある水と野草を見て、呼び出すべきものを思い浮かべる。 美女、美女、美女…と念じてみるが、水と野草を見ているとどうしても奴の姿が思い浮かぶ。 青緑っぽい色をしたゲル状のあいつ。 ぶるぶると震えて動き、感情があるのかもわからないあいつ。
「ちがう…違う!!」
フリードは己を鼓舞するように声を張り上げるが、視界に纏わりつくようにあいつの姿が思い浮かぶ。 やがて、美女、美女と念じる心とあいつが混ざり合うように思考をかき乱した。 心の中に浮かぶ美女とスライムは絡み合うように溶け合い、やがておかしなものが誕生する。
美女スライム。
この際、それでもいい。
「こおおおおい!!」
碌な詠唱も考えていなかったフリードは、変わりに気合十分の雄たけびを上げると皿に向かって魔導を行使した。
皿がバチバチと光を放ち発光した後、ボンという音を一つ鳴らし大量の煙があたりを包む。 このような演出を施した記憶の無いフリードは唖然とした表情で自らの手の先を見ていた。
もやもやと漂っていた煙がゆっくりと晴れ、皿の上に乗る同居人の姿をさらけ出す。
「…。」
「…。」
互いを無言で見つめ合う。
「…。」
「…。 ブルブル。」
フリードは無言で同居人に野草を差し出した。
同居人はブルブルと喜んで、野草に【体当たり】をする。 ずにゅりと引き込まれていく野草を無表情で眺めるフリード。
「…まあ…成功だな…。」
フリードの同居人第一号、緑の色のスライムが誕生した。
Ⅰから赤魔導士 @numinu
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