第6話

 僕はいない。


 君のとなりに、僕はいない。



 白い空間で白いベッドの上で、沢山のくだに繋がれた君は、囚われの姫君のように安らかに美しく眠っていた。

 そして君は、一年前のあの日と同じ日に、同じ時間に、粉雪のように静かに溶けて消えた。僕だけを残して。僕だけを此処に置き去りにして。残ったのは小さな金属の雪の結晶だけだった。


 僕は君のために、泣き喚くことも出来なかった。ただ、ずっと君だけを見つめていた。その冷たい手のひらに僕の熱を移すように、一秒でも長く触れていた。



 そして、僕もまた。

 あの日と同じ場所にいる。


 今年もイルミネーションが憎らしい程に輝いている。この街を鮮やかに染めている。


 君と過ごしたかったクリスマスの日を。

 新しい年を迎えたかった日を。

 共に過ごしたかった日々を。

 僕は永遠に願ってる。


 雪が僕という存在を白く染めて、やがて何も見えなくなるくらいに、何度も綺麗に塗り潰してゆくまで、僕は此処にいる。


 ──さよなら。セツ。永遠に眠れ。


 僕はいない。

 君のとなりに、僕はいない。


 雪が降る夜の日、僕は──。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セツに思う、君のことを。 S【雑賀 禅】 @zen_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ