優しい懺悔

@enadorioitii

第1話

ある1人の、初老の男性が、真っ暗な路地裏を慣れた足取りで歩いて行く。見た目はいかにも紳士といった風だ。

行く手には黒いカーテンで覆われた店があった。

「いらっしゃい、今日はどんな臓器をご所望だい?」

髪は抜け落ち、顔が皺だらけになった老人が、ヤニで黄色くなった歯を見せて笑いながら言った。

「今日は臓器じゃないんだ。医者はもう辞めたんだよ。」

表情一つ変えず、初老の紳士はそう言う。

「ありゃま、そいつは驚きだねぇ…お前さん、もう人を切り刻まないのかい」

「やめてくれ、人聞きの悪い………と、いうことで、前々から言ってたの、お願いできるかな?」

「金は?」

「いくらがいい?」

「はは、やっぱかなわねぇや、ちと待ちな。」

そう言って、彼は店の奥へと姿を消した。

…5分程で戻ってきた彼は、傍らに16歳くらいの少女を引き連れていた。彼女は手錠をはめて、目隠しと耳栓をされている。

「こいつは俺の店の中でも特に上物の顔をしてんだ…常連だったお前さんの顔に免じてくれてやるよ。値段は、、、そうだなぁ、、、本体に2000万、手錠の鍵が1000万で、合計3000万だ。」

「わかった。」

手に持っていたバッグから札束を取り出し、店主の前に積み上げた。

「さすがだねぇ、全部ピン札とはご丁寧なこって。確かに受け取ったぞ、ほれ、鍵だ。」

「すまないね、、、じゃあ、多分これが最後だ。」

「おう、そう考えると名残惜しいが…じゃあな、伝説の闇医者さんよ。」

「はは、じゃあな。」

手錠の鍵も外さないまま少女をおぶり、彼は店を後にした。

「…神様、私は罪人です。本来人に触れていい身分ではありません。そんな私が、自分勝手な懺悔のためにこの子を育てることをお許しください…」

道中、彼はずっと、そんなことを言っていたらしい。

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