死に顔にくちづけを、

さしみ

第1話




血塗れの彼女が隙間風の様な呼吸音を出しながら僕を見つめている。

切り裂かれた喉はまるでニンマリ笑っている人の様に開いてしまい、そこからボタボタと血が溢れて止まらない。


僕はどうしていいのか分からず、必死に血を止めようと開いた喉元に両手の平を被せるように置いて無意味な止血を試みる。


情けない話だ。

死神のくせに魔法の一つも使えない。


時間を戻す事も、傷口を塞ぐ事も、何一つ出来ない。

一応神なのに無力極まりない。


裂けた喉元の血が逆流して彼女の口からも溢れでる。

ゴボゴボと溺れるように吐血し、酸素を上手く吸えない為に苦しむ彼女に僕は何もしてやれない。


『もし、標的対象の寿命を延ばしたらどうなるのですか?』


一度だけそんな質問を仲間にした事がある。

ただ単に気になって聞いた。

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死に顔にくちづけを、 さしみ @sashimi0528

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