アイに時間を――エメーリャエンコ・モロゾフ

ジェスコッツラルド

アイに時間を――エメーリャエンコ・モロゾフ

 以下に翻訳するのは、稀代の無国籍多言語作家エメーリャエンコ・モロゾフが遺した愛に関する手記である。世界各国を放浪し各地で浮き名を流したモロゾフが唯一真剣に結婚を考えたというひとりの女性について書かれており、難解極まる彼の恋愛哲学(モロゾフィー)を紐解く鍵となることを切に願う。



 *   *   *



 多くの女たちがモロゾフの前に現れ、モロゾフを通り過ぎていった。

 姫川ゆうな、跡見しゅり、澤村レイコ、飯岡かなこ、あまね弥生、織田玲子――。

 皆、素晴らしい女たちだった。

 しかし、モロゾフにとって本当の女といえるのはたったひとり――上原亜衣だけだった。


 彼女の引退から二年。

 いまなおモロゾフの心は上原亜衣を求める。


 モロゾフはあらゆる街角の、あらゆる女性の影に上原亜衣を探した。

 山を越え、谷を越え、どんぐり眼で探し続けた。


 そして探し疲れると上原亜衣のコンプリートBESTを抽斗の奥から引っ張り出して鑑賞した。

 上原亜衣はモロゾフの脳にある種のインスピレーションを与え、その代価として世界にモロゾフのエッセンスを還元させた。


 彼女の甘くたおやかな魅力はモロゾフ脳内の受容体を激しく喚起し、目にも止まらぬ早業でモロゾフのエッセンスを宇宙の境界線へとストライクさせる。


 モロゾフは思う――亜衣に時間を。



 *   *   *



 ある時、モロゾフは上原亜衣から与えられたそれと等しいくらいのインスピレーションをあべみかこに見出した。

 たちまちモロゾフは彼女に夢中になった。


 だが、家宝のひとつでもあるあべみかこと上原亜衣の共演作品を鑑賞するにつけ、モロゾフは自問する。

 永遠の愛とは? 永遠の亜衣とは?


 上原麻衣との姉妹共演は素晴らしかった。もちろん家宝のひとつとなっている。

 しかし、一之瀬すずと森星いまりは本当に姉妹なのか? 本当に同一人物ではないと? ならば、なぜ共演しない?


 嗚呼、あいちん。


 あいちん。


 あいちん。

 

 この哀れなモロゾフの妻になってはくれまいか。


 ござる、ござるよ――



 *   *   *



 多くの女たちがモロゾフの前に現れ、モロゾフを通り過ぎていった。

 彼女たちの美しい肌は、いつだってモロゾフの指の間をすり抜けていく。

 それでも、エッセンスは世界に還元され続けるのだ。


 モロゾフの視線の先で、あべみかこが悪戯っぽく笑った。

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