終わり

終わり

　私の時間は止まった。

　私だけを残して、世界の時は流れ続ける。

　誰も私を見てはくれず、ただ見慣れた病室に置いてきてしまった私の抜け殻の手を取り、皆が空の器に涙を零した。

　計るべき対象を失った医療機器、動かない肉の塊、すすり泣く妻、俯くたくさんの影、単調に動く時計の針。

　世界から私は切り離されてしまった。

　音も温度も感じない場所で一人、見えるだけの世界に寂しさを感じた。

　吐き出したい感情ならばたくさんあるのに、今の私には涙も声も何もない。

　死の瞬間には妻への感謝を口にしようと思っていたのに、涙を流す妻の弱々しい姿を遠目から見ていると、謝罪の言葉ばかりが浮かんでくる。

　ごめん、その言葉さえも、今の私には伝えることができない。