春眠/umitachi について

 最近ピンとくるアーティストに出会えず「歳を取るにつれて自分が流行のメインターゲット層でなくなっていく」という事実を肌で感じていたところ、地方局のラジオから流れてきた音楽が琴線に触れた。


 なんとかいくつかの単語を聞き取って検索して、それが「umitachi」というバンドの「春眠」という曲であることがわかった。

 岐阜県出身のスリーピースバンドで、結成はわりと最近。メンバーの脱退と加入が色々あって現在の体制になったのは更に最近らしい。なんとニューアルバムが発売した直後で、初のテレビ出演直前とのこと。旬の音楽が響いたのは随分と久しぶりである。

 改めてよく聴いてみたところ、かなり好みな音だった。


 まず演奏がいい。特にリズム隊がしっかりしている。

 めちゃくちゃテクニカルなことをしているわけではないが要所で面白いフレーズが光って耳に残る。単調な場面がまったくなく、演奏だけ聴いていても退屈することはないだろう。

 音作りもだいぶ骨太。インタビュー記事でロックバンドと紹介されていたとおり、ロックを看板に掲げるに値する音の圧である。


 次に歌詞が良い。

 変に気取った文句はなく、メロディにカチッとはまる言葉選びが秀逸。具体的なシチュエーションを表現するというより、やや抽象的、詩的な言葉で人の心情を描くものが多い。

 一回読んで内容が大体わかる文章ではなく、これはどういう意味だろう、ここにはどういう感情が隠れているだろう、と考える余地がある。紛れもなく「詩」である。


 もちろんボーカルも良い。

 芯のしっかりした丸く太い声質(表現がへたくそで申し訳ない)である。低音から高音まで突き抜ける安定感が素晴らしい。ファルセットが耳に刺さらないのはそれだけで才能だ。

 歌い方には多少のクセがあるが、うまいボーカリストにありがちなわざとらしさというか、鼻につく感じをうまく中和するよう作用している。気がする。

 早口で言葉の多い音楽が流行っている昨今、一言一言を丁寧に歌っている様子が非常に好ましい。


 最後に、これは徹頭徹尾好みの話だが、ボーカルを前面に出したアレンジでないのが良い。

 強い声を強い音楽が支える、まさにバンドサウンドだ。声も楽器の一つと言っていい。なんだかボーカリスト+バックバンドみたいだなと感じる音楽が多い中、umitachiは紛れもなくロックバンドの音を出している。


 アルバムとしては2024年5月時点で、1st、最近出たばかりの2ndだけのようだ。個人的にはうるさい音楽が好きなので、ロック色の強い2nd「Stand up」をよく聴いている。

 一つだけ難癖をつけるところがあるとすればyoutubeかCDかストリーミング配信でしか聴く手段がないということくらいか。古い人間なので音源をダウンロードしたい……。

 ともあれ、今後に期待できる実力を備えた良いバンドである。表題の「春眠」はアルバムを牽引するキャッチ―さがあって最初に聴くには最適だろう。オススメ。

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俺の(好きな)歌を聴け! テイル @TailOfSleipnir

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