第16話 月下騎人記(仮投稿)

冷たさと沈黙。

岩陰に身を寄せるクライトは、頭上に青く白い光が照る様子を認めつつ大きな背伸びをした。強風に凪ぐ草々のざわめきが言葉に出来ない不吉さを感じさせたが、彼の隣であくびと共に次々と起き上がる仲間たちの声を聞いていると、それは緩やかに胸の奥へ引き下がった。

視界を滑らせれば流れる川の岸に建てられた小屋や地面から突き出た柵、飼い葉桶から、この場所が“飛行場”であることを理解できる。

既に起きて翼竜の世話をしていた耳長と目が合い、クライトが手を振ると相手も空いた手で挨拶を返した。出撃はまだ先だが、乗り物に命を預ける以上手入れに念を入れることは当然だ。

柵に縄で繋がれたワイバーンが長い首を曲げ、耳長に振り返る。

耳長の竜挺兵は短く刈った銀の頭髪を撫でて翼竜に跨った。鞍も手綱も持たずにただ彼が連れ合いの首を撫でると、応えにワイバーンは短く吼えて四肢を動かし光の中へ歩いて行く。

クライトはそのやり取りの中に、懐かしい琥珀色の香りを思い出していた……


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TIDE OF THE DEAD 久洛戸 修張衛 @KRKD-SBRE

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