第2話 時雨春

ヴァイツ隊専用車両の一つに、武良威ぶらい01,02が搭載されていた。

 しかし、パイロットは機内から外に出ずじっと待機していた。


 その武良威ぶらい01,02に近付く軍服姿の二人。

 一人は、青髪ボサボサ、タレ目の無精髭を生やした男性。

 二人目は、黒髪、短髪の眼鏡を着けた青年。


 ボサボサ髪の人物が拡声器を取り出し声を掛けた。



『えー、君達は包囲されている。 降りてきなさい』


「隊長、それは、立て籠り犯に掛ける言葉です」


『えっ! マジで? ……怖くないよ、何もしないから出ておいで』


「隊長、それは変質者の誘い文句です」


『えっ!? えっと……えっと』


「レパートリー少なくないですか?」



 すると、武良威ぶらい01,02の胸元にあるコックピットが開いた。

 二人は意を汲んで出て来てくれたのである。

 そして、上下稼働により動くロープに片足を掛け下に降りる二人。


 すると、黒髪、眼鏡の青年が手を差し出し前に出て、



「改めまして、特務隊ヴァイツ武藤雄樹むとうゆうき少尉です。 コードは "ユウキ"」



 すると、義勇軍討伐ギルドの二人も手を握り自己紹介を行った。



「俺は、武良威ぶらい02のパイロットのオルだ。 コードは"02"」


「俺は、武良威ぶらい01のパイロット、ウルフだ。 コードは"01"。 しかし、いいのか? 俺達がここにいること事態が犯罪じゃないのか?」


「まあ、従来であればこの列車の内部は最高機密に当たりますけど、ここ・・だけなら問題ないです」


ここ・・だけね……まあ、それもそうか」



 そう言って、ニカッと笑ったオル。

 すると、ユウキは二人に身分証の提示をするように促した。


 この世界の身分証は、本人と役所にしか起動できない特殊なカードとなっている。

 更には、財布、預金、ギルド証、などにも利用するためこの世界において必需品となっている。


 そして、二人の身分証を受け取ったユウキは何も言わず機械に通した。



「御返しします」



 怪訝そうな二人の顔を見てユウキが笑いながら説明を行った。



「脅かして申し訳ありません。 お二人に今回の報酬を払ったんですよ。 軍との共同作戦の最高報酬が100万イェンなのでお二人に100万イェンの入金をしました」



 すぐに確認する二人。

 そして、オルがすぐに口を開いた。



「マジで増えてる!? 良いのかよ?」


「ええ、10メートル級の飛翔型ドラゴンタイプの外皮は2,000万イェン程するので本来はもっと多くの金額をお渡しすべきなんですが……」


「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。 軍からの報酬を貰って、更には最高機密に乗らして頂けるとは」


「あー、口止め料も込みと考えておいてください」


「「もちろん」」



 三人はそう笑いあっていた。

 すると、ユウキの後ろから手が伸びチョークスリーパーを決めるボサボサ髪の人物。



「お前、俺を無視して話を進めるんじゃないよ!」


「ぎぶぎぶ」


「挨拶が遅れて申し訳ない。 特務隊ヴァイツの隊長……隊長! のルシュト・フィバイン中尉、コード"隊長"です」



 ボサボサ髪、タレ目の無精髭がそう言って手を差し出した。

 そして、ウルフとオルは再度自己紹介を行った。

 すると、ウルフが不思議そうな顔をして尋ねた。



「そう言えば『黒舞姫』の姿が見えませんね?」


「あっ、そう言えば……ユウキ、なんか知らないか?」


「姫なら、機体のオーバーホールをウキウキで行ってますよ」


「姫がウキウキだと…………アイツがウキウキなのはご飯と休みの時だぞ!? ご飯は、まだとしたら……休む気なの!?」


「隊長、民間人の前ですよ。 ちなみに、隊長が一週間で害獣を100体倒したら1日休みをくれてやると約束したからですよ。 ちなみに姫は312体倒したので3日休む気です」


「うっ、そ、でしょ…………?」



 その場に崩れ落ちる隊長。



 ◇



 一方、隣の車両には腰まで伸びた艶やかな黒髪を靡かせる綺麗な一人の女性が機体をバラしていた。


 その格好は、170センチを越える恵まれた体格にピッタリとした身体のラインが見えるスーツに長い軍服のロングコートを羽織っていた。

 そして、隣にいる黒猫と二人で歌を歌っていた。



『「休みー、休みー、やーすーみー。 明日は明日は休み♪」』


「姫、ご機嫌じゃの?」


「おー、善爺ぜんじい。 明日から3日休みなんだよぉ♪」


「ほう、3日ねぇ。 良く隊長が許したの?」


「『まあねー』」


「ニーコ。 御主も休み前にメンテを行うぞい」


『おっけー』



 夏の隣にいた、黒猫がそう言った。

 善爺と呼ばれた老人は、ニーコのボディをメンテし始めた。



「しかし、ニーコ……姫は元気すぎんかね?」


『当たり前です。 私も興奮が押さえきれないですから……今日、日本DOOMからマスターが来るんですよ!』


「マスターと言うと、君の思考回路を組んで姫のメンテナンス技術、操縦技術を仕込んだと言うあの?」


『そうです! いやぁ、楽しみでしょうがないです』


「なら、さっきの列車に乗ってたかもな? ここは日本DOOMのルートだからの」


『!? かも知れません! 私の勇姿を褒めてくれるでしょうか……』


「姫の……では、ないんじゃな?」


『あー、あんな猪突猛進女はどうでもいい。 マスターが面倒見てやれって言うからついてるだけ』


「そうかい、そうかい。 フェッフェフェッフェ」


『気持ち悪い笑い方するなよぉ……善爺』


「いやのぉ……似た者同士じゃの……」



 以前、善爺は夏から全く同じ事を聞かされていたのだ「面倒見てやれって言うからついてるだけよ」と。



 ◇◆◇◆◇◆



 時は少し進み、ヨーロッパDOOM――大陸間鉄道駅。

 駅に着くと乗客、迎えに来たのであろう客、駅員を含め皆が拍手をしながら盛り上がっていた。


 確かに、無事たどり着いたのは喜ばしいがこれはオーバーではないかと怪訝な顔をした人物がいた。



『マスターが到着するまで音楽と設計に夢中だったから気づいてないんです』



 そう言ったのは、鳥形ボディのAIサリである。

 そして、サリが肩に乗った美少女とも取れる顔をした少年が、時雨夏、ニーコの待ち人である時雨春であった。


 その容姿は、身長150程、肩まで伸びた黒髪を束ねており、黒目、真っ黒なロングコートを羽織っていた。



「さて、サリ。 宿はどこだ……眠い」



 春は、まるで少女のような綺麗な声をしていた。



『明日、入学試験ですよ。 折角、夏が軍属士官学校の機兵設計、運用化の入学試験を受けられると言うのに。 勉強する素振り位見せてください』


「素振りでいいのか?」


『ええ、その姿勢が大切ですし。 マスターの知識であれば楽勝ですから』


「…………だろうな」


『では、行きますか』



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日、春とサリは世界政府軍属士官学校へとやって来ていた。

 筆記とメンテナンス試験を受けた。

 そして、面接試験、中に入ってすぐの事であった席に座る間も無く面接官が口を開いた。



「……君が時雨夏君からの紹介だと聞いたから、試験を受けさせたと言うのに……筆記、実技試験ともに0点とは……最も恥ずべき事だ。 君は現時点で不合格を言い渡す帰りたまえ」



 春は、そのまま言葉を受け取り宿へと帰って来た。

 そして、サリが近寄ってきて、



『マスターどうでした?』


「全部0点で失格だってさ」


『なんと……それほどにまで難しかったのですか?』


「いや、滅茶苦茶簡単だったけどな……夏が嫌われてんじゃない」


『……ありえますね。 これからどうなさるので?』


「親父とお袋は旅に出てしまったしな。 ここの|義勇軍討伐ギルドにでも整備士としてとりあえず就職するか」


『ショックを受けてないんですね?』


「俺の目的は、俺専用の機体を作る事だからな。 全ては、手段でしかない」



 そして、春とサリは宿を引き払い義勇軍討伐ギルドへと向かった。



 ◆◇◆◇◆◇


 ―side夏―


 夏とニーコは、世界政府軍属士官学校へと来ていた。

 勿論、春にプレッシャーを与えないため時間をずらしてやって来ていた。



「どう言うこと!」


「ですから、時雨春は筆記、実技共に0点で不合格となったんです」


「納得いかない……テストを見せて」



 夏の圧倒的な威圧感に負けた教師は、夏に春の答案用紙を渡した。

 すると、採点した教師や周りの教師はニタニタしながら夏の表情が変わっていくのを見ていた。

 すると、金属で出来た机を減し曲げた。



「……なるほど、生徒が無能では無く、教師が無能なんですね。 軍法会議に掛けてこの学校の教師をそう入れ換えしないといけませんね」



 その言葉に、全ての教師から夏に批判の声が上がった。

 すると、一人の妙齢な女性がやって来た。



「何事ですか?」


「理事長、時雨夏さんが失礼な物言いをしまして……」


「夏、なんと言ったのです?」


「それは」



 一人の教師が話そうとすると理事長と呼ばれた女性が教師を止めた。

 すると夏は再度同じ事を言った。



「生徒が無能では無く、教師が無能と言いました。 また軍法会議に掛けるとも……ここにいる教師をそう入れ換えするために」


「何故です?」


「これ」



 答案用紙に目を通した理事長が一つ溜め息を洩らした。

 そして、怪訝そうな顔をして、



「確かに、残念ながら夏が言うとおりですね」



 すると、教師全員の顔が真っ青になった。

 そして、一人の教師が「どうしてですか?」と尋ねる。



「この回答を見て0点としか思わないあなた方は、誰一人現在の状況に気づいてないからです……この答案用紙の答えは全て現行の最新技術です。 更に一部の技術に関しては現行技術よりも何歩も先に行ってます」


「「「「なっ!?」」」」


「あなた方は、現状に満足して学ぶ事を辞めたのです。 そんな方々が未来を担う彼等の教育が出来るとお思いですか?」



 理事長の言葉に言葉を無くす教師達。

 しかしながら、一人の教師が再び立ち上がった。



「しかしながら、彼がメンテナンスを行った機体は動くことは愚かエンジンすらも起動できなかったのですよ!」



 その言葉を聞いた夏は、春が整備した機体の元に向かった。

 そして、操縦場に機体を持っていく。



「私が乗っても良いですか? 理事長」


「ふん。 パイロット歴25年の私が起動出来なかったモノをこんな小娘が……」



 春が整備した機体は、三代前の型式の武良威ぶらい『BR16―01』であった。

 陸上式の機体であり骨格、全てが無骨な樽ボディである。

 アダ名は、足の遅さ、ボディの堅さにより『重タンク』と呼ばれている。



『聞こえます?』



 操縦席に座る夏の声が響く、そして意図も簡単に起動した。

 そして、見たことのない速度と軽やかな動きを見せる『重タンク』。

 その動きに、言葉を失うパイロット教官。

 機体から降りた夏が一言。



「最高のメンテナンスって言っても過言じゃないですよ。 理事長」


「ええ、あの『重タンク』があんな動きを見せるなんて」



 するとパイロット教官が声を上げた。



「何故、何故起動できた!?」


「乗ってエンジン起動したら、すぐわかるじゃないですか? オート起動で無くてセル起動って」


「…………そうか。 そうだったのか……オート起動が当たり前の世の中でセル起動を行うなんて……」


「はぁ……いい? あなたの現場に出ないパイロット歴なんて初心者と同じ。 私達は、機体を選り好み出来る立場じゃないのよ」


「だが、何故そんな無駄な事を!?」


「だから、無能って言ってるの! オート起動式は、エンジンを自動制御機能がついているから一定出力しか出せない、だけどセル起動なら操縦者自身で出力を変えられるから……そうね、1.5倍は出力が上がってるわ」


「バカか燃費が悪くなるではないか」


「……そんなの操縦者の腕次第でしょ……私なら、オート起動の最低でも2倍の時間は稼働させられるわよ」



 その言葉を聞き、パイロット教官、メンテナンス教官、学科教師の全員が下を向いた。



「学長、春の処遇は?」


「ええ、合格よ。 それと、今期を持ってあなた達は解雇となります。 また、働きたいのであれば教員採用試験を合格してください」


 ◇


 春の不合格が取り消しになった事を伝える為に、滞在先とされている宿に向かったがそこは既に引き払われていた。



「何処に言ったのよ……ママとパパには連絡がつかないし」


『―――わかったわ。 外縁部にある義勇軍討伐ギルドの整備士として就職したみたい』


「どうやって見つけたの!? 凄いわ、ニーコ」


『簡単よ。 サリと連絡を取っただけよ』



 そして、夏は春がいる義勇軍討伐ギルドへと向かった。

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武良威ーBuRAIー @karuka

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