第1話 時雨夏

 


 ヨーロッパDOOMから50㎞離れた大陸間鉄道線路上。


 列車は停車し、そこに向かう一体の三メートル級のカマキリタイプの害獣と戦う五メートル級の有人機兵『武良威ぶらい』の姿があった。


 丸みを帯びただけの無骨なその機体は、マシンガンを放ち害獣を牽制する。


 "カンッ、カンッ、カンッ、カンッ"


 と、けたたましくその場に響き渡る外皮へと当たる銃弾の音。

 それは、害獣怯むことなく列車へと近付く。


 その瞬間、害獣の背後からもう一機の武良威ぶらいが奇襲を掛け頭頂部に巨大な斧を振り下ろす。


 "ガッ、ガッ、ドンッ!"


 その斧は害獣を切断し地面を強く叩いた。



 《害獣の駆逐を確認しました。 コア破壊の上で焼却を行って下さい》



 そう言ったのは、列車内に用意された対害獣用車両に待機しているオペレーターである。


 その仕事は、レーダーを使い害獣の動向を予測し武良威ぶらいのパイロットに伝え指示する事にある。


 そして、コアとは害獣体内に存在する結晶体であり害獣の源と言えるモノで高濃度の放射能を放っている為、破壊することが必須となっているのだ。


 焼却に関しては本来、外皮など持ち帰り売買できるモノだがこれは列車の護送任務な為に焼却処分を行うことになっている。


 なお、そのまま放置すると他の害獣のエサとなるため列車のルートが危険になるのを防ぐため焼却を行うのだ。



『ブライ01、了解。 コアは、俺が壊す』



 マシンガンを持った武良威ぶらいが害獣の体内から晒された紫色の石を打ち粉々にすると、炭化しそのまま灰になった。



『ブライ02、了解。 焼却を開始する……しっかし、勿体ねぇな。 この外皮なら、10万イェンぐらいになるのによ』



 そう言いながら、左太腿から焼却用手榴弾を取り出し害獣の死骸に投げつけた。

 巨大な火柱の後、激しく燃え上がる害獣。



『まあ、そう言うな。 これは、護衛なんだ。 害獣狩りなら帰ってからな。 ブライ02』


『わかってるよ。 ブライ01』


 《!? 列車後方30㎞地点に五メートル級害獣が三体、接触まで6分程》


『ちっ、不味いな。 オペレーター……指示を頼む』


『ふぅ……』


 《ヨーロッパDOOMに救援要請をしました。 列車は五分後に発車可能ですが……》


『こちらブライ01。 列車は行け。 時間稼ぎ位は出来る』


『ブライ02。 以下同文』


 《……御願いします》



 そして、五分後に列車は発車する。

 武良威ぶらい01,02の二機はその後ろに立ちはだかった。



『こちら01、ライフルスコープにて目視で確認した。 ウルフタイプ二体に……幻獣タイプしかも飛翔型!?』


『02、了解。 飛翔型の幻獣タイプとはな……なんとか足止めするぞ!』


 幻獣タイプとは、世界に存在していなかったタイプの生物を示しており今回はドラゴンの姿を成した害獣であった。

 また、飛翔型とは空を飛ぶ希少種の害獣である。



 武良威ぶらい01は狙撃で、ドラゴンタイプを狙い撃つも回避されたが、地上を走るウルフタイプ一体を撃ち飛ばした。

 しかし、撃たれたウルフタイプは直ぐに起き上がり何事も無かったかのように走ってくる。



『やっぱり銃じゃ、足止めにもならないか……なら!』



 ブライ01は、太腿部分の中に収めていた二本の剣を両手に持った。



『おお! 久し振りだな。 双剣』


『お前とコンビ組むなら後衛に徹しないとな』


『へぇ、へぇ、前衛しか出来なくてすいませんねぇ』



 そう軽口を叩きながら害獣に向かって行った。

 ウルフタイプ二体は、武良威ぶらい01,02に襲い掛かった。


 ドラゴンタイプの害獣は、それを見届けるように列車の上空を追い掛けた。



『ちっ、知能ありの害獣か!?』


『不味いな01、ここは俺が食い止めるお前の足なら追い付ける幻獣タイプを頼む!』


『頼んだぞ――02』



 武良威ぶらい01は、踵を返しキャタピラーを稼働し"キュル、キュル、キュル"と音と共に高速で幻獣タイプを追い掛けた。

 ソレを追い掛けようとする、ウルフタイプの害獣に武良威ぶらい02は、ナイフを投げつけ制止した。



『どこも行かせねぇよ。 犬ッコロ』



 そう言うと、右手に両手斧を構え、左手に巨大な剣を構えた。

 そして、飛び掛かって来た二体のウルフタイプを大剣でガードしつつ、両手斧でウルフタイプ二体を吹き飛ばす。


 じわじわと舌舐めずりをしながら隙を見計らって目を合わせたウルフタイプの二体。



 〔ガルルルゥゥウウ……〕


 〔グルルルゥゥウ……〕


『相談でもしてるのかよ! だが、俺の愛機はパワー特化だぜ! テメェら程度にどうこう出来ると思うなよ!』



 その瞬間、重々しいキャタピラー音と共にウルフタイプの二体に接近する武良威ぶらい02。

 そして、二体のウルフタイプは左右に別れた。



『やっぱり知恵ありの害獣かよ! だが、読んでいたぜその動き』



 武良威ぶらい02は、左手に持った大剣を左にいるウルフタイプ投げつけ串刺しに。

 そして、右側にいるウルフタイプに突撃し両手斧を薙いだ。


 しかし、ウルフタイプの害獣は後ろに跳び跳ね着地と同時に武良威ぶらい02に牙を剥いて襲い掛かった。


 ソレを左手で受け止める武良威ぶらい02。


 "ギシギシ……クギャ、ギシギシ"


 と、音と共に武良威ぶらい02の左手が砕けていった。

 その瞬間、両手斧がウルフタイプの首を跳ね、地面に落ちたウルフタイプのコアが存在する頭を打ち砕いた。


 そこで喜ぶ事もなくすぐさま、左手に引き返し串刺しになっているウルフタイプの首を跳ね潰した。


 そして、焼却用手榴弾を取り出し二体を焼き払った。



『肉を切らせて骨を断つってな。 さっさと、01の元に行くか……』



 両手斧を背中に携え右手に大剣を構え肩におき、重々しいキャタピラーを動かし列車へと走り出した瞬間であった。


 急に空を覆う暗雲。



『……なんだよ。 マジかよ』



 武良威ぶらい02が見たのは暗雲ではなく五メートル級の飛翔型ドラゴンタイプの群れとその中心を飛ぶ十メートル級の飛翔型ドラゴンであった。


 ◇


 武良威ぶらい01は、高速で飛翔型ドラゴンタイプを追いかけていた。

 そして、走りながら双剣を納めライフルを取り出した。



『見えた……1,500メートル先か……しかないか』



 ライフルを構え飛翔型のドラゴンタイプの翼目掛けて射撃した。

 "カンッ"と言う音の後、"ドンッ"と言う爆発音が鳴り響いた。

 ドラゴンタイプの左の翼の半分が弾け飛び、地面へと落ちて行く。



『ふぅ。 咄嗟の思いつきだったが上手く行ったな……あとは!』



 武良威ぶらい01が飛翔型ドラゴンタイプに急接近した瞬間に大地を繰り上げ飛翔型ドラゴンタイプの背中に双剣を刺した。



 〔グ、ギャァァァア! ギャァァア!〕



 と、言う雄叫びと共に空に向かって飛び上がった飛翔型ドラゴンタイプ。

 武良威ぶらい01を共に上空へと連れて行き、上空で一端停止。



『不味いな。 俺を地面に叩き落とすつもりか……』



 その瞬間、飛翔型ドラゴンタイプは地面に向かって降下し始めた。


 "ギシ、ギシギシギシ、ブチッ、ギチチ、ギリ、ギリ"


 と、外装と中にある擬似合成筋肉が火花を上げ悲鳴をあげる武良威ぶらい01の両腕。



『いよいよ、ヤバイな。 殺られるくらいなら焼却焼手榴弾を起動させて一緒に死んでやるよ!』



 そう覚悟を決めたその瞬間であった。

 飛翔型ドラゴンタイプの首が切断され、そして武良威ぶらい01の機体は空中に浮いていた。


 その武良威ぶらい01の傍らには、精巧に作られた機兵が二体がゆっくりと地面に降りていた。



『いったい何が……』


 《救援です……世界政府軍からの救援です!》



 オペレーターが興奮しながらそう叫んだ。



『世界政府軍特務隊『ヴァイツ』隊長、ルシュト・フィバイン中尉、救援要請に応じ到着』


『同じく『ヴァイツ』所属、武藤雄樹むとうゆうき少尉』



 武良威ぶらい01の支えている二人がそう自己紹介をした。

 そして、もう一機飛翔型ドラゴンタイプの首を跳ねた機兵。



『…………』


『あー、先行しているのはウチのお姫様。 時雨夏しぐれなつ特務少尉』


時雨夏しぐれなつ……あの天才黒舞姫!?』


『来る……』


 抑揚のない声でそう伝える夏。

 その瞬間皆の目に映ったのは、大量の飛翔型ドラゴンタイプその中心には10メートル級の飛翔型ドラゴンタイプが存在していた。


 武良威ぶらい01を地面に降ろし剣と槍を構えた『ヴァイツ』の二人。



『さて、俺達は姫のおこぼれを始末するぞ。 雄樹』


『了解です。 いやぁ、姫がいると任務が楽で仕方ないですよ』


『全くだ。 しかも、今日は姫がノリノリだからな』



 そこに左腕を潰した武良威ぶらい02がやって来た。



『無事だったか。 01……そこに居るのは特務隊『ヴァイツ』かよ……これまた、大物だ。 しかも、空に居るのは黒い機兵……本物の『黒舞姫』かよ』



 基本、ヴァイツが使用している機兵『武良威ぶらい飛翔型』は、青を基調としているが時雨夏の機体だけはダークカラーに塗られている。


 そして姿も女性を模した形を取っているのだ。

 背中のスラスターと空中機体制御、方向転換用スラスターをスカートの様に設置されており機動力は通常の二倍程になっている為に操縦出来るのは夏のみとなっている。


 通常は、背中にスラスター、ボディー全体に空中機体制御、方向転換用スラスターが埋め込まれている。


 また、もう一つ特筆すべき点がある。

 通常、武良威ぶらいの操縦は操縦桿そうじゅうかんとペダル等を使用するのだが彼女の機体は、モーションシステムと呼ばれる身体の動きによって操作する方法が取られている。


 初期型武良威ぶらいと呼ばれる地上型には未だに採用されているモノの武良威ぶらい飛翔型では、操作が難しすぎる為に排除されたのだ。


 しかし、彼女は独自に制作した自律式AI『ニーコ』を搭載しスラスターの制御を全てオートにすることで驚異的な動作をすることが可能になったのである。


 黒式武良威ぶらい飛翔型の中には、身体のラインが目立つ特殊なスーツを着けた時雨夏の姿があった。


 顔には、マスクが付けられており口元しか姿は出ていなかった。



 《ナツ、五メートル級の飛翔型ドラゴンタイプが24頭、十メートル級の飛翔型ドラゴンタイプが一頭いるぞ……んでどーする?》


「ニーコ、決まっている……制御を頼む」


 《了解。 エネルギー量確認。 全力での稼働時間は三分十三秒―――》


「わかった。 ――隊長、雄樹。 洩らした奴等はよろしく」


『『 了解 』』


「ニーコ、スタート!」



 夏が操縦する黒式武良威飛翔型は四本の剣を出し二本づつ接続し二刀の剣を構え、高速で飛翔型ドラゴンタイプの群れの中に突撃して行った。


 飛翔型ドラゴンタイプの吐き出す炎を回避しながら首を跳ねて行く夏。

 その動きは、見惚れてしまうほどに綺麗に飛翔型ドラゴンタイプの害獣を駆逐していく。


 そして、その中から四体の飛翔型ドラゴンタイプが飛び出してきた。

 すると、ユウキ機が槍を構え空に翔る。


 そして、次々と飛翔型ドラゴンタイプの翼を切断して行くユウキ機。

 そして、下で待ち構える隊長機は剣を構え落ちてくる飛翔型ドラゴンタイプを真っ二つに切り裂いて行く。



『すまないが、武良威ぶらい01,02動けるならコア破壊と焼却を御願い出来るか?』


『『了解』』



 ヴァイツ隊の二人は、洩れてくる飛翔型ドラゴンタイプを殲滅する傍ら武良威ぶらい隊の二人は、ヴァイツ隊と夏が殲滅した飛翔型ドラゴンタイプのコア破壊と焼却を繰り返す。

 

 そして、夏と十メートル級の飛翔型ドラゴンタイプは一対一で対峙していた。



「流石は十メートル級のドラゴンタイプは硬いわね……」


 《残り稼働時間は、五十二秒》


「ニーコ、作戦提示」


 《あの強固な外皮を切断は不可能です。 狙うは、目、鼻、口の三点です》


「口に焼却手榴弾でも捩じ込むか……」


 《!? バカなの?》


「本気、さっさとする」


 《AI使いの荒い女……全く。 マスターを恨む……》



 高速で飛翔型ドラゴンタイプに飛び込む黒式武良威飛翔型。



 《ブレス確認……回避す……》


「突撃」


《はぁ……突撃する》


 炎を吹き出す飛翔型ドラゴンタイプにそのまま突っ込む黒式武良威飛翔型。

 その右手に携えた両刀の剣を高速で回転させ炎を押し返す。

 そして、そのまま押しきり口を両刀で切り裂いた。



〔グゥゥウ、ギャァァァア! グルルルゥゥウ……!〕


「口元に緊急旋回」


 《まじかぁ……》



 黒式武良威飛翔型は、再び飛翔型ドラゴンタイプの口元に。

 そして、飛翔型ドラゴンタイプの口元にしがみつきその中にありったけの焼却手榴弾を捩じ込み急速降下しながらライフルを取り出し下顎を狙い撃つ。


 "ドドド、ドンッ、ドドンドンッ"


 と言う爆発音と共に落下する10メートル級の飛翔型ドラゴンタイプ。



 《残り稼働時間、3,2,1,0―――機能停止》


「あっ、エネルギー切れ隊長助けてー」


『お前な、いつも言ってるが完全に機能停止するまでエネルギーを使うなよ』



 初めからこうなる事を予想していたルシュトの乗る隊長機に抱き抱えられ地上に降り立った。

 そして、10メートル級の飛翔型ドラゴンタイプのコアを破壊した。



『隊長、この飛翔型ドラゴンタイプの外皮はどうします?』


『ん? 勿論、持って帰って加工するさ。 彼等にも報酬を出さないとな』



 隊長がそう言ったのは、武良威ぶらい01,02の二人に対してだった。



『いや、俺達は助けて貰った立場で……』


『いやいや、義勇軍討伐ギルドとはいい関係を保たないとね』


『珍しいな。 軍は俺達を下手に見てるのに』


『02! 失礼だぞ』


『いやいや、そちらの言うとおりだよ。 実際、義勇軍討伐ギルドを軽んじてる者も多い。 しかし、俺達は君らあっての存在だからね。 実際、今日君達は列車の乗客を救ったじゃないか』


『それは、ご助力あっての……』


『それは、違うね。 君達がいなければ助力も無かったのだからね』



 その言葉に、二人は喜びを感じていた。

 世界政府軍と義勇軍は、設立の経緯は同じであるもやはり権力の違いから格差はあった。

 その為、軍に入れなかった者=義勇軍と思っているものは多い。


 しかし、目の前にいる『ヴァイツ』の隊長は義勇軍の重要性を認識し讃えてくれるのだ。


 そんなことを話していると、高さ十メートル近くあろう高さの鉄道が目の前に止まった。



『ヴァイツ隊専用車両だ。 君達の機体も一緒に乗せていこう。 さあ、入ってくれ』


『隊長。 よろしく』



 機兵全員と十メートル級の飛翔型ドラゴンタイプを乗せヨーロッパDOOMへと帰還するのであった。

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