後編

ガラガラガラ


教室の扉が開く。

時間通りに彼が現れた。

「俺に用事って何?」

扉を閉めて近づいてくる。

お互いの顔が何となく見える場所まで彼は近づき、彼は立ち止った。

そんな彼に今度は私のほうから近づく。

「私…」

少しして、彼女が教室に来た。

怯えたように扉を開けながら、彼女は顔を出した。

「凛桜…?話って何…?…凛桜…?」

私は扉のほうに振り返る。

その動きで私に気づいた彼女は、私のほうに近づいて来る。

しかし、もう少しでお互いの顔が見える距離で、彼女は急に立ち止る。

彼女は私の足元に視線を向けたまま、時間が止まったように動かない。

「ねぇ…。どうしたの?久しぶりに二人っきりなのに」

私の言葉に彼女はビクッと跳ねる。

彼女はやっと私に目を向けた。

「…な…に……してるの…?…なんで…こんなこと…」

震える声でやっと出した言葉は、私の望む言葉ではなかった。

私がいくら待っても、彼女がそれ以上言葉を発することはなかった。

「何って…。邪魔者を消しただけ。だって、こいつがいなければ、咲良(さくら)は私の元に戻って来るでしょ?」

「何言って…。どうしてそうなる!?」

咲良は恐怖を滲ませた声で私に叫ぶように,尋ねた。

肩を震わせ、体を硬直させて、そこに立っている。

「だって、言ったでしょ。他に好きな人ができた。凛桜のことはまだ好きだよ。でも凛桜より好き人ができたの。って。なら、これがいなくなれば、私の元に戻って来るってことでしょ?」

床に転ぶ男の頭を自分の靴で小突きながら、私は咲良に説明した。

男は床に転がり、いまだに血が流れている。

私の全身に付いた血のまだ生暖かく、その温かさで私は高揚する。

また口角が上がるのが分かった。

「これで、これからも一緒にいられるね」


ゴロゴロゴロ


遠くに雷の音が聞こえ、雨が降り出した音も聞こえ始めた。

「やっぱりここに呼んで良かった。中庭の桜がよく見える…」

咲良はいまだに怯えた表情で、私を見ている。

私はその表情にかまわず、咲良に近づく。

咲良の頬に、血に染まった右手を添える。

血が、咲良の頬を伝って、雨のように滴り落ちる。

「こんな光景を花の雨って言うんだよね」

「愛してるよ。咲良。これからもずっと一緒にいようね」

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さくらちる 暁 時雨 @ageshigure

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