さいわいなことり

夕凪 春

小鳥なのか否か、それが問題だ

「――つまりね。この世界における魔法というのは――」


目の前で魔法について力説しているのはティセという魔法使いだ。

なぜ俺にそれを伝えたいのかは、まったくをもってわからん。そもそも俺は――


「ちょっと、聞いてるの? リューイ!」


彼女は俺を大袈裟に指差して声をあげる。リューイと言うのはもちろん俺の名前だ。

親父の跡を継いで武器屋をしている。魔法だと? 魔法なんぞ武器売りが知るかよ。


「すまん、聞いてなかった」

「……どこから?」

「最初から」

「もう!」


ティセはぷくっと頬を膨らませると、ぷいっと明後日の方向を向いた。

彼女は毎日と言っていいほどうちの店に来る。何を買うでもなくとにかく勝手に話をして満足すると帰っていくのだ。

だらだらとそれを聞かされるこっちの身にもなれっての!


「そういえばね」


魔法以外の話題で頼む。


「魔法以外の話題だから安心しなって」

「お前、まさか心が読めるのか!?」

「いや……顔見てたらわかるって。何よそのポーズは、気持ちが悪いわね」


そうか、それはすまなかった。

両手で両胸を隠すのをやめた俺は、彼女に次の話を促す。


「で、どんな話なんだ?」

「ええっとね――」


これを聞いたのがいけなかった。



「――っていう崩落事故が最近あってね。鉱山勤めもなかなか大変だよね」

「あぁ確かに、命懸けだしなあれ。まあそのお陰で、うちの商売も成り立っているわけだから感謝しかないな」


ふむふむと腕を組み、ようやくまともな話題を聞く事ができた俺は頷いて続ける。


「しかしそれって大丈夫だったのか? 怪我人や、最悪人死にが出るだろ?」

「あ、それに関してはね。鉱山は魔法ギルドが一応介入してるから」

「してるから?」

、崩落の影響はそこまでなかったみたいなの」


…………?

今、何て言ったんだ? 小鳥がどうの……? なぜ急に小鳥が出てきた。

いや、この流れで小鳥はどう考えてもおかしいよな。

小鳥……コトリ……ことり……。


俺は違う意味で唸り始めることになった。


「どうしたの? 難しい顔して。リューイのくせに珍しい」

は余計だ。それより、さっきのをもう一回言ってくれないか?」

「……さっきのって?」

「だから、崩落のあたりだよ」


ティセも俺と同じように腕組みをすると、思い出すように口を開く。


「崩落の影響はそこまで」

「惜しい。その前だ」

「えっと……鉱山勤めもなかなか大変」

「戻りすぎ。もう少し進んでいけ」

「うーん? 鉱山は魔法ギルドが」

「そう、介入がどうたらのあとだよ」


ティセは思っていたより記憶力がいいようだ。さすがは魔法使いといったところか。

もうすぐで小鳥とやらの真理に近づくことができる。


「あぁ! これね!」


彼女は俺の言わんとすることを理解できたのか、手をと叩く。


「えっと、さっきのは――」


――カランカラーン


「ようリューイ! ちょっとこの剣鑑定してくれないか? 絶対お宝だと思うんだよなコレ」


だああああっ! うるせえっ!

それどころじゃねえんだよ! 黙ってろ三下!


「リューイ、呼んでるよ。鑑定だって鑑定」

「あ、あぁ……」

「いや、へこみ過ぎでしょ……」


ティセが落ち込んだ俺の肩を叩き、いぶかしげに顔を覗き込んだ。



「じゃあね! また来るから今度は、お茶菓子を用意しておくこと!」


彼女は行ってしまった。結局大事な部分は聞き取れず仕舞いだ。

こうなったら俺にも意地がある。明日は小鳥についての話を振ってみるとしよう。

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さいわいなことり 夕凪 春 @luckyyu

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