優しい母は魔王でした。そして、魔王を倒さねば世界のバグは直らない――。

ある日、宅配便で届いた夕張メロン。
しかし、ただのメロンではなかった。

なんとこの夕張メロン、言葉を話す。
主人公のことを勇者だと告げる。
そして魔王は――主人公の母親だと。

メロンいわく、この世界の現状は「バグ」なのだという。
戦争も虐殺も人殺しもいじめも虐待も、世の中にあふれるありとあらゆる不平等も。
すべては世界が「バグ」を起こしているのだという。

バグの要因は、魔王の存在そのものである。
魔王を倒せばこの世界は救われ、全人類が幸せになれるという。
ところが、どうやら本人には自分が魔王だという自覚がないようだ。

主人公は選択を迫られる。
母親の命か、
全人類の幸せか。
1回だけ使える最強のチートスキルは、幼少期の頃いつのまにか使ってしまったらしい。

序盤はコミカルに進むが、内容はかなり重い。
主人公がどう判断するのか、目が離せなくなる。
彼が最愛の母親を殺してしまうシーンが、何度も脳内にちらつく。

その一方で、私には神の言葉もメロンの言葉も、すべてが嘘くさく感じた。
それは私の希望的観測に過ぎないのかもしれないが、この二者がとてつもない悪意を抱いて主人公とその母親を陥れようと企んでいるという可能性を捨てきれなかった。

もし、主人公がメロンの言葉を信じたら?
もし、主人公がメロンの言葉に従って『魔王』を倒したら?
もし、神やメロンの言葉が嘘だとしたら?

あとに残るのは悲劇だ。
脳内でそんな可能性も広げつつ作品を読ませてもらったので、先の展開がまるで想像つかなかった。

物語が進んでゆくと、主人公はさまざまな場面に遭遇する。

学校でのいじめ。
電車の中の障がい者。
コンビニのアル中。

最初は、なにを見させられているのかわからなかった。
作者が世間に対して感じている憤りを書きたかったのかな、と思った。
そして作品をすべて読み終えたとき、気付いた。
これらはすべて世界の「バグ」なのだ、と。

この作品は、異世界転生ものを装った『社会派作品』だ。
あまりにも深く、立ち止まり、考え、そして悩まずにはいられない。
この世界は矛盾をはらんでいる。

ときには、主人公がぎょっとするような考えをする場面もある。
しかし、それは作者が問題に真正面から向き合ったからこそ書かれた言葉なのだと感じる。ひとつひとつのエピソードが、魂を絞って書かれたような文字の羅列だ。

そしてクライマックス、なんと、メロンは――。
実に、この作者らしいラストだと思った。

もし、世の中にある不幸の原因が、すべて「バグ」のせいだとしたら。
そのバグさえ修正すれば、すべての人が幸せになれるとしたら。
でも、そのために一人、たった一人を殺さなくてはならないとしたら。
そして、殺したあとには、殺したことさえ忘れてしまうのだとしたら。

あなたはどうするだろうか。
それでも、この世界を救う『勇者』になりたいと思うだろうか。

ある日、あなたの目の前にあるメロンから声が聞こえたら――。

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